2021 Fiscal Year Annual Research Report
異分野連携で挑む革新的水シンチレータ技術の実現
Publicly Offered Research
Project Area | Exploration of Particle Physics and Cosmology with Neutrinos |
Project/Area Number |
21H00063
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
飯田 崇史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40722905)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 水シンチレータ / フッ素系界面活性剤 / ニュートリノ検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)炭化水素系界面活性剤、(2)フッ素系界面活性剤、(3)シクロデキストリン、の3通りの手法を用いて、発光量や透明度が優れた革新的な水シンチレータ開発を目指している。 初年度は、一般的な炭化水素系界面活性剤を用いた発光量の大きい水シンチレータの開発をメインに取り組んだ。詳細な組成を書くことは避けるが、ある陰イオン界面活性剤と非イオン性界面活性剤を混ぜることで、発光量を高めるのに必要なプソイドクメンを溶けやすくできることが判明した。これを用いてプソイドクメンの量を高めた高発光量の水シンチレータ開発を組成を変えて行い、線源や宇宙線などを用いた性能評価を行った。この高発光量水シンチレータは、長基線ニュートリノ実験の前置検出器としての利用を念頭に置いて開発しているものである。 また、環状オリゴ糖と呼ばれるシクロデキストリンを用いることにより、界面活性剤を用いない水シンチレータの開発を並行して進めている。シクロデキストリンはグルコース分子が6~8個環状につながった構造をしている。内側が疎水性、外側が親水性となっており、内部に有機分子を包接して水に溶けることが出来る。今年度の研究では、水に溶かしたシクロデキストリンによって、発光剤(2,5-ジフェニルオキサゾール:PPO)を内包できることを確認した。今のところ、水溶液中のPPO濃度は十分に高いとは言えないため、今後はこれを高めていけるかどうかが成否のカギとなる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、これまでの知見や導入した装置を用いて様々な組成の水シンチレータを作り、その性能を調べるということを行った。その中で、炭化水素系界面活性剤を用いた水シンチレータの開発に大きな進展があった。これまで一種類の界面活性剤のみを用いていたが、ある二種類を混合することで、プソイドクメンを水に溶かした際に可溶化しやすくなることが分かり、今後の水シンチレータ組成の設計に大きな影響を与えると考えられる。 シクロデキストリンを用いた手法でも、水に発光剤が溶けたことが確認され、原理検証は達成できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
炭化水素系界面活性剤を用いた発光量の大きい水シンチレータに関しては、光検出効率を高めるための波長変換剤(Bis-MSB等)に関しても割合を調整して組成の最適化を図る。また、最適化された組成の水シンチレータについては、実際の検出器に用いるために長期的な安定性を評価していく必要がある。 シクロデキストリンを用いた水シンチレータに関しては、PPOの水中での濃度を上げるためにシクロデキストリンの水溶性を上げる必要がある。今後、有機合成の専門家と協力してシクロデキストリンに親水性の官能基を付ける実験を実施する予定としている。 さいごに高い透明度が期待されるフッ素系の界面活性剤を用いた手法については、プソイドクメンを溶かす能力が低いため、発光量を上げることが難しい。プソイドクメン以外の、フッ素系界面活性剤と相性の良い有機溶媒を探していく。
|