2021 Fiscal Year Annual Research Report
有殻アメーバの頑健な卵型被殻形成から学ぶ力学的最適化
Publicly Offered Research
Project Area | Elucidation of the strategies of mechanical optimization in plants toward the establishment of the bases for sustainable structure system |
Project/Area Number |
21H00359
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
野村 真未 山形大学, 理学部, 助教 (40770342)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有殻アメーバ / 元素分析 / 被殻構築 / 卵型被殻 / セメント物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
有殻アメーバのポーリネラは形の異なる複数枚の珪酸質鱗片から構築された卵型の頑丈な被殻をもつ。この被殻は細胞外で鱗片が細胞によって操作され、鱗片同士が細胞から分泌されたセメント物質によって接着されることにより構築される。つまり、頑丈な被殻は珪酸質の鱗片だけでその硬さが維持されているだけではなく、鱗片同士を接着するセメント物質も同様に被殻の頑健性維持に重要な役割を担っていると考えられる。初年度はポーリネラにおけるセメント物質の組成を明らかにすることを目的とした。細胞を樹脂包埋し、超薄切片を作成後、走査透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、セメント物質部分に顆粒状構造が観察された。エネルギー分散型X線分光法により、セメント物質に含まれる元素の特性X線を検出した結果、リン(P)、酸素(O)、鉄(Fe)が微量ではあるが含まれていることが示唆された。さらに、セメント物質の顆粒部分からはFeとOのピークが検出された。水素(H)や炭素(C)は細胞を包埋する際に使用する樹脂の構成成分であるのに加え、特性X線の分解能が低くなってしまう軽元素のため、セメント物質内に存在したとしても局在を示すことが難しい。しかし、セメント物質は生体分子であることから、HやCも含む物質であろうと予想される。次に、セメント物質に含まれている成分がどこから供給されたものなのかを明らかにするため、被殻構築中の細胞の切片を作成し、母細胞と娘細胞の被殻におけるセメント物質の構成元素の比較を行った。その結果、分泌されたばかりの娘細胞被殻のセメント物質からはPが検出された一方で、顆粒状構造が観察されず、Feも検出されなかった。このことからセメント物質は時間経過とともにFeを沈着させてゆくことが明らかとなった。今後は原子間力顕微鏡を用いて被殻の硬さを計測し、セメント物質におけるFeの有無が被殻の頑健性に与える影響を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有殻アメーバのポーリネラにおいて、鱗片同士を接着するセメント物質に鉄(Fe)が含まれていることを走査透過型電子顕微鏡(STEM)-エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて初めて明らかにした。さらに、セメント物質に含まれるFeは分泌された直後の娘細胞被殻側からは検出されず、分泌されてから時間が経過していると考えられる母細胞側からのみ検出された。細胞内の他の領域から顕著な鉄のピークを得ることができなかったことを考慮すると、セメント物質が細胞外に分泌された後に、培養液中のFeをセメント物質が吸着したと考えられる。上記の成果について日本植物学会第85回大会および2021年度日本建築学会大会(東海)オーガナイズドセッションにおいて口頭発表を行い、好評を得た。現在、セメント物質へのFeの吸着により被殻の頑健性が変化するかどうかを測定するため、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて被殻の強度を測定する方法を検討中である。ポーリネラの被殻は卵型であり、基盤に被殻を固定するのが非常に難しい。一般的な接着剤では水中で硬化しないため、使用できなかった。そこで、透過型電子顕微鏡で使用するグリッドをビニールテープで基盤に固定し、細胞液をゆっくりと流し込むことで、細胞をグリッドにはめ込むことができた。グリッド内に固定される細胞は少数であったが、細胞の固定に成功した。今後、実際にAFMによる観察を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
有殻アメーバのポーリネラのセメント物質に含まれることが明らかになった鉄(Fe)が被殻の頑健性にどの程度貢献しているのかについて明らかにするため、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて被殻の強度を測定する方法を検討中である。細胞をグリッドを介して基盤に固定する方法を開発したが、グリッドにはまり込む細胞が少ないことから、他の方法も継続して検討する予定である。奈良先端科学技術大学院大学(NAIST) バイオサイエンス領域の出村拓教授および國枝正助教の協力を得て、当該研究室に設置されているAFMを用いて測定を継続してゆく予定だ。研究成果は2022年9月に行われる日本建築学会での口頭発表が決定していることに加え、同年9月に行われる日本生物物理学会での発表も予定している。 また、研究協力者である北海道大学電子科学研究所の西上幸範助教と慶應義塾大学先端生命科学研究所のジョゼフィーヌ・ガリポン特任助教の協力を得て、3Dプリンター用のデータを構築中であり、アウトリーチ活動にも利用できる手のひらサイズのポーリネラ被殻模型を作成する準備を行っている。
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Research Products
(3 results)