2021 Fiscal Year Annual Research Report
Actuation of intracellular protein crystals via inducible protein self-organization
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Engine: Design of Autonomous Functions through Energy Conversion |
Project/Area Number |
21H00397
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 秀樹 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50435666)
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Project Period (FY) |
2021-08-23 – 2023-03-31
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Keywords | 合成生物学 / 細胞骨格 / マイクロマシン / 細胞内タンパク質結晶 / 光操作 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、細胞内で結晶化するタンパク質のうち、XpaおよびiBox-PAK4catの2つについて、これらの細胞内タンパク質結晶を生きた細胞内で駆動するマイクロマシンの素材として用いるための予備的検討を行った。特に、これらの結晶に刺激依存的に任意のタンパク質を集積させる技術の開発に取り組み、特にiBox-PAK4cat結晶の成長末端にタンパク質を集積させる技術について有望な結果を得た。タンパク質結晶を物質の吸着などの足場とする研究などわずかな例外を除いて、タンパク質の結晶を素材として用いるという分野は未踏の領域であり、特に本研究のようにタンパク質結晶を「動かす」ことを念頭においた検証は世界的にも極めて少なく、研究の独自性は非常に高い。これらタンパク質結晶は、細胞内の構造を自在に操作するという、いわゆるトップダウン型の合成生物学的アプローチにおいて全く新しい素材として有望である。加えて、ナノメートルサイズのタンパク質の自己組織化を通じて、マイクロメートル以上のスケールの構造をつくるという特性から、将来的にはナノテクノロジー分野にも大きく寄与すると期待される。 並行して、タンパク質結晶を用いたマイクロマシンを駆動する、いわばエンジンとなる合成生物学技術ActuAtorについて本年度に基礎的な検討を行い、現在論文を投稿中である。本技術は、生きた細胞内の物体に機械的力を作用させ、「押す」ことができるツールであり、細胞内の生理学的構造、ミトコンドリア・ゴルジ体・核・ストレス顆粒など幅広い構造を変形させることが確認された。従来の類似技術である光ピンセット・磁気ピンセットに比較して実験的に簡便であると同時にスループットが高く、技術的独自性・優位性が高い。上記タンパク質結晶と併せて、生きた細胞内で動作するマイクロマシンの実現のために理想的なツールといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず蛍光タンパク質Xpaの検討を行った。トランスフェクション後2日以降の一部細胞内に、高輝度の蛍光を発する構造を確認した。共焦点顕微鏡での観察で幾何学的形態が得られ、立体的な結晶であることが示唆された。また、細胞内Xpaタンパク質結晶内部にミトコンドリアなど生理的細胞内構造を閉じ込められることを示唆する結果を得た。一方で結晶生成は極めて高発現の細胞内でしか認められず、制御が現段階で不可能なことに加え、結晶生成に2日以上を要した。また一定サイズ以上のタンパク質を融合させると結晶性を失うことから、他ツールとの組み合わせが難しい。現在はXpa結晶を内包するオートリソソームを標的とする戦略に切り替え検討を進めている。 他のタンパク質について調査し、課題スタート時には予定して以上のいなかったタンパク質、iBox-PAK4catが有望なことを発見した。iBox-PAK4catの利点のひとつはその結晶性の良さであり、トランスフェクション後1日の段階で多くの細胞で結晶を確認できた。もう一つの利点は他のタンパク質と融合した状態でも結晶を形成するというデータが得られた点である。さらに、FRB融合型を用いた予備的検討で、成長する結晶末端特異的にタンパク質を集積させることが可能という結果を得た。この結果は、この技術を用いてiBox-PAK4catの結晶成長を制御すること、およびActuAtorをはじめとする合成生物学技術と組み合わせてこの結晶を駆動することが可能であることを示唆し、極めて重要な知見である。一方、iBox-PAK4cat結晶は現段階で細長い六角柱の結晶しか形成できないこと、結晶の側面へのタンパク質集積には成功していないことなどの欠点も有するため、Xpaなど他の結晶と相補的に応用を進めていくのが得策と考えられる。 また、駆動技術ActuAtorの予備的な特徴づけが終了し、論文を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
生物学技術ActuAtorの開発と特徴づけにそれぞれ注力した。次年度以降は、これら二つの方向性を統合して、より生きた細胞内で働くマイクロマシンの開発へと近づけることを目指す。特に、XpaとiBox-PAK4catという、大きく形態の異なる細胞内タンパク質結晶を用いることで、研究計画当初の目的であるActuAtorによって作用する力の「受け手」の形態と力および運動との関係を考察することを目標として研究を推進する。 まず、Xpaの細胞内結晶について、リソソームマーカータンパク質LAMP1を用いて、Xpa結晶を内包するオートリソソームの膜越しに力を作用させる実験を試みる。Xpa結晶生成の効率の悪さから、実験的には困難が予想されるが、細胞に超音波や低温など物理的な擾乱を与えることで結晶化を促進するなど、少しでも結晶化の効率を上げて目標の達成を目指す。 並行して、iBox-PAK4catの結晶成長を、成長末端に一定サイズ以上のタンパク質を集積させることでストップする技術を開発し、結晶のサイズを操作することを可能にする。大きさをコントロールした結晶を生成した上でActuAtorを作用させ、結晶の運動の様子を解析することを目指す。また、融合するドメインとiBox-PAK4catとの間のリンカーを調節するなどの方法で、結晶側面にも任意のタンパク質を集積させる手法の開発を試みる。 ハードウェア面では、細胞内局所で高い自由度で光操作を行うための光学系を構築し、既存の倒立傾向顕微鏡に組み込む。 また、新たな方向性として、細胞外で作ったマイクロメートルサイズの構造を生きた細胞内に導入する技術の開発にも取り組む。マイクロファブリケーション技術を用いて、形態を精密にコントロールしたハイドロゲルを作り、表面にタンパク質を固定化した上で細胞内に導入する技術の開発に向けた予備的検討を行う。
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