2021 Fiscal Year Annual Research Report
光により駆動するシンギュラリティ細胞による長期記憶維持システムの解明
Publicly Offered Research
Project Area | Singularity biology |
Project/Area Number |
21H00434
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂井 貴臣 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (50322730)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 長期記憶 / 記憶維持 / PDF / CREB |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶は動物が自然界で生存する上で必要不可欠な生命現象であり、脳における最も重要な機能の一つである。動物が獲得した新たな記憶は、特定の状況下で安定した長期記憶へと変換され、脳神経系に維持され続ける。しかし、一度獲得した記憶がどのようにして脳で長期間維持され続けるのか、その分子機構の詳細はほとんど明らかになっていない。。これまで長期記憶維持の研究が発展してこなかった大きな理由は、膨大な数の脳神経細胞の中で「いつ」「どの細胞が」長期記憶維持に機能しているのか、その情報を抽出することが困難だからである。我々は近年、ショウジョウバエ(以下ハエ)が光を利用して長期記憶を維持しているという興味深い事実を見出した。脳で発現する神経ペプチドPDFが、左右4個ずつ存在するPDFニューロンから光依存的に分泌され、ハエ記憶中枢(キノコ体)の転写因子CREBが光依存的に活性化することで長期記憶が維持されている。4組のPDFニューロンが長期記憶維持を制御していることから、PDFニューロンは記憶維持を司るシンギュラリティ細胞であると言える。本研究では、約4000個の細胞で構成されるハエ記憶中枢に注目し、PDFニューロンの活動依存的にCREB活性が上昇する細胞を可視化する技術の確立を目的とした。 ハエは学習により長期記憶を記憶中枢(キノコ体)に獲得し、想起するまで記憶を維持し続ける。長期記憶の獲得と維持には、いずれもCREB活性が必要であるが、長期記憶を獲得する細胞と長期記憶を維持している細胞が異なることを我々は明らかにしている。よって、単にCREBの転写活性が上昇している細胞を可視化するだけでは、長期記憶を獲得した細胞か、維持している細胞かを区別できない。そこで、長期記憶を維持している細胞のみを可視化するために、3種類の形質転換系統の作製を計画し、そのうちの1種類の作製に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した形質転換バエのコンストラクトは以下の3つである:①6xCRE-FRT-stop-FRT-LexA系統、②MB-FLP系統、③LexAop-KikGR系統。①は、CREB活性を検出するためのコンストラクトである。CREBが活性化するとLexAの発現を誘導しようとするが、転写終結配列(stop配列)により転写は起こらない。stop配列は2つのflippase recognition target(FRT)の配列の間に挟まれており、組み換え酵素であるFLPが発現する細胞ではFLPがFRT配列を認識し、FRT-stop-FRT配列を取り除く。②はキノコ体で組み換え酵素であるFlippase(FLP)を発現するコンストラクトである。したがって、6xCRE-FRT-stop-FRT-LexA系統と組み合わせると、主にキノコ体でFLP-outが生じ、転写因子であるLexAが発現する。①と②のハエに加えて③LexAop-KikGR系統を組み合わせると、LexAによりKikGRが発現する。光変換タンパク質KikGRは紫外線照射により緑色蛍光から赤色蛍光にシフトので、学習後かつ記憶維持段階の前に紫外線を照射することにより既存のKikGRを赤色蛍光に変化させたのち、記憶維持段階で緑色蛍光を発する細胞を観察することで、記憶維持細胞の数や細胞の種類を同定することができる。 本研究課題は2021年9月に採択されたため、2021年度の研究期間(7カ月)内に、②MB-FLP系統を2系統(R13F02-FLPおよびR55D03-FLP)作製し、各系統の動作確認を行った。その結果、、R13F02-FLP系統では主にキノコ体ニューロンでフリップアウトが生じることを確認した。一方、R55D03-FLP系統ではFLPの動作が確認できなかった。よって、本研究にはR13F02-FLP系統を利用することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
6xCRE-FRT-stop-FRT-LexA系統に関しては、繰り返し配列が多く、予想以上にコンストラクト作製に時間がかかった。通常のクローニングでは作製が困難であったため、人工遺伝子合成により作製した配列をインジェクション用プラスミドに導入する方法に切り替えて作製する予定である。
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Research Products
(9 results)