2021 Fiscal Year Annual Research Report
嗅神経・三叉神経を介する嗅覚の感度と認知機能の相関性の解析
Publicly Offered Research
Project Area | Lifelong sciences: Reconceptualization of development and aging in the super aging society |
Project/Area Number |
21H05348
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
内田 さえ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門副部長 (90270660)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 認知機能 / 嗅神経 / 三叉神経 / 脳血流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,嗅覚と認知機能との関連性を解明することである.その際,嗅神経系と三叉神経系の神経経路の異なる匂いに着目し,認知機能との関連性の差異を明らかにする.認知機能としては特に脳内コリン作動系が関わる注意や弁別機能との関連に着目する.様々な世代を対象に調査し,高齢者における特徴を明らかにする. 2021年度は主に地域在住高齢者を対象とし,これまで調べてきた注意機能に加えて,弁別機能に着目した解析を行った.嗅覚機能は,芳香の認知に関わる嗅神経系を介する匂いであるバラ花香の域値を調査した.パイロット研究の結果,バラ花香の域値が高い(感度が低い)高齢者群では,注意課題の成績が低いだけでなく,弁別課題の成績も低いことが示された.弁別機能の低下は,注意機能の低下よりも顕著であった.すなわち高齢者において,嗅神経を介する匂いの域値の上昇(感度低下)と,弁別機能・注意機能の低下との関連が明らかとなった. 弁別・注意機能はいずれも脳内コリン作動系の働きが関連すること,同コリン作動系は認知症で顕著に脱落することが知られている.本研究結果から,嗅覚機能(主に嗅神経系を介するバラ花香の同定域値)の低下は,同コリン作動系が担う認知機能の低下と関連することが示唆される. 嗅覚は認知症の最も初期から顕著に低下する機能である.本研究は超高齢社会において,(1)神経機構に基づく新しい嗅覚・認知機能研究の提案,(2)高齢者の認知機能低下を早期に発見・予防する嗅覚刺激法の開発の点で,生涯学研究の推進に貢献する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,神経生理学的知見に基づき,嗅神経と三叉神経の神経経路の異なる匂いに着目し,嗅覚と認知機能の関連性を解明することである.具体的には次の3つに主眼をおく計画である.1)様々な世代を対象に調査し,特に高齢者における特徴を明らかにする.2)認知機能としては特に脳内コリン作動系が関わる注意や弁別機能との関連に着目する.3)生理的反応の指標として嗅覚や認知課題遂行時の脳血流反応を調査し,嗅覚機能との関連性についても解析する. 2021年度の研究では,第一に,これまで調べてきた注意機能に加えて,弁別機能に着目した解析が進んだ.芳香の認知に関わる嗅神経系を介する匂いであるバラ花香の域値が高い(感度が低い)高齢者群では,弁別課題の成績が低いことを明らかにした.この研究成果を,学会発表するとともに,短報の英文論文として発表した.第二に,注意機能について着目し,バラ花香と汗臭の域値との関連性を解析した.この結果,バラ花香の域値の高い群では注意機能が低いのに対して,汗臭の域値と注意機能の関連は認められなかった.バラ花香は嗅神経を介する匂いの代表である.一方,汗臭は三叉神経を介することが示唆されている.従って,嗅神経と三叉神経を介する匂いでは,認知機能との関連性が異なると考えられる. Covid-19の影響で調査の実施が困難な点があり,調査人数は限られているが,少数例においても嗅覚と認知機能の関連性が見出されている.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,主に若年から中高年を対象とした調査を進め,2021年度に解析した高齢者の結果と比較する.さらに,嗅覚機能検査や認知課題を遂行する際の脳血流の変化を観察する.具体的には以下の方法により調査する. (1)嗅覚機能の評価は,同定域値を検査することにより行う.匂いの種類として,嗅神経を刺激するバラ花臭やバニラ臭,三叉神経を刺激する酢,ミントや腐敗臭等を用いる.(2)認知機能の評価は,注意機能と弁別機能を評価する.高齢者を対象とする場合には全般的認知機能についても検査する.(3)脳血流の計測は,近赤外分光法(NIRS)を用い前頭葉血流の連続測定により行う.被験者を安静にして脳血流が安定に記録されることを確認した上で,嗅覚検査や認知課題を遂行する.課題終了後再び安静状態で脳血流の測定する.(4)嗅覚域値,認知機能,脳血流反応との間にどのような関連性を解析する.さらに,嗅神経と,三叉神経を介する匂いで,関連性の差異を明らかにする.(5)若年,中高年,高齢者の年代等による違いを検討し,高齢期における特徴を明らかにする. 以上の研究から,神経生理学的知見に基づいた,嗅神経と三叉神経の神経経路の異なる匂いの嗅覚機能と認知機能(特にコリン作動系機能)との関連性の解明を行う.本研究は超高齢社会において,神経機構に基づく新しい嗅覚・認知機能研究の提案,高齢者の認知機能低下を早期に発見・予防する嗅覚刺激法の開発の点で,生涯学研究の推進に貢献することを目指す.
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Research Products
(5 results)