2021 Fiscal Year Annual Research Report
有機太陽電池における動的エキシトンと非フラーレンアクセプター分子四重極の相互作用
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic Exciton: Emerging Science and Innovation |
Project/Area Number |
21H05384
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
吉田 弘幸 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00283664)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 有機太陽電池 / 低エネルギー逆光電子分光 / ドナー・アクセプター界面 / 永久四重極モーメント / バルクヘテロ接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機太陽電池(OPV)では、非フラーレンアクセプターの成功により劇的に光電変換効率が向上し、2020年には18%を超えた。これは、非フラーレンアクセプターの高い吸光度により光電流が増加したこと、電荷分離のエネルギー障壁が低いために電圧損失が少ないことが要因である。しかし、後者の電圧損失が低い理由はよくわかっていない。 本研究は、非フラーレンアクセプター分子のもつ大きな四重極に注目する。これまでに、代表者は低エネルギー逆光電子分光法を開発し、初めて有機半導体のLUMO準位(電子親和力)が0.1 eV以上の精度で決定できるようにした。これを駆使することで、世界に先駆けて電荷-四重極相互作用の精密測定に成功し、薄膜の分子配向や混合膜の分子比率により、有機半導体の分子四重極が電子準位を1 eVも変えうることを実証してきた。 本研究では、代表者が確立したこの研究手法をドナー・アクセプターのバルクヘテロ接合に適用し、これまで見過ごされてきた非フラーレンアクセプターの大きな分子四重極が、OPVの動的エキシトン解離のエネルギー障壁に与える影響を実測している。この結果、フラーレンアクセプターに比べて、非フラーレンアクセプターでは、ドナー・アクセプター混合比率によって電子準位(LUMO準位)が0.1 eV以上変化することが分かった。しかもこの変化は、界面付近から電極に向かって電荷を収集するのに有利なエネルギーカスケードとなっており、これが非フラーレンアクセプターを用いたOPVの電荷分離効率を高め、電圧損失を低下させているものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドナー(D)にポリマーPTzBTを選び、アクセプター(A)について、フラーレンアクセプターPCBMと非フラーレンアクセプターITICとの比較を行った。我々のLEIPS測定からは、ITICとPCBMの電子親和力は3.7 eVと等しいにも関わらず、太陽電池の開放端電圧Vocは、PTzBT:ITICのほうがPTzBT:PCBMよりも0.1 eV高いことから、四重極の作る静電場の影響が観測されると予測される。とDとAの混合膜をスピンコート法により、ドナーが表面偏析しやすいことから、X線光電子分光によりD/A混合比を決定した。この試料について、低エネルギー逆光電子分光と紫外光電子分光の測定を行い、D/A混合比とドナー、アクセプターの電子準位の関係を精査した。混合により、確かに非フラーレンアクセプターITICではLUMO準位が浅く(電子親和力が小さく)なり、しかもAの混合比が少なくなると、よりLUMO準位が浅くなることが分かった。このような明確なエネルギー準位の変化はPCBMでは見られなかった。 このITICについての結果は、Aの比が少ない界面付近でLUMO準位が浅く、電極に近づくにしたがってLUMO準位が深くなっていることを示しており、電荷分離を有利にするものと考えられる。一方、PCBMでこのようなAの混合比依存が見られなかったことは、ITICのもつ大きな四重極がつくる静電場がエネルギー準位を変えているものと解釈できる
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Strategy for Future Research Activity |
D/A混合比によりエネルギー準位が変わることは分かってきたが、界面での四重極の向きとの関連は明確でない。界面構造と電子準位の関係を明らかにすることが次の目標である。このことから、添加剤を入れて薄膜構造を変える、ドナーポリマーを変えるなどの実験を開始している。また、これらの実験結果をシミュレーションにより解析することで、薄膜構造と電子準位の関係を明らかにできると考えている。
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Research Products
(4 results)