2021 Fiscal Year Annual Research Report
コヒーレント分子振動誘起による電荷分離エキシトンの時空間制御
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic Exciton: Emerging Science and Innovation |
Project/Area Number |
21H05412
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
木村 謙介 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (70856773)
|
Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
Keywords | THz-STM発光分光法 / 動的エキシトン / 単一分子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドナー・アクセプター(DA)分子系において、高い時空間分解能で自在に構造を操作することによりエキシトンを制御することは、動的エキシトンの学理構築に向けた重要な課題の1つである。本研究では、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたボトムアップのアプローチで様々な構造のDA分子二量体系を作成し、独自に開発するSTMとテラヘルツ(THz)光を組み合わせた時間分解発光測定手法によりエキシトンの時間発展を極限的な時空間分解能で計測する。そのうえで、超短パルス光を精密に時間制御しつつ照射することで分子振動をコヒーレントに誘起し動的効果に基づくエキシトン制御を実現する。 このような研究目的を実現するために、今年度は学術変革A領域内の共同研究によりモデルDA分子系の検討を行った。研究計画当初の分子系とは異なるものの2次元平面で発光が期待される分子系の見当をつけることができた。 更に、時間分解発光測定を実現するためにTHz光パルスを引き金として分子発光を誘起した。従来のSTMではトンネル電流は定常的に流れているため、STM発光分光法は時間応答が遅く、時間分解発光測定は困難であった。そこで、時間分解能の限界を打破するために、超短パルスレーザーにより1ピコ秒の時間幅のTHz光パルスを発生させ、そのTHz光パルスが有する光電場を用いてSTMに1ピコ秒の時間だけ電圧を印加することで、超高速にSTMを駆動させることで分子発光を誘起するという着想に至った。今年度はTHz光学系の改築により、世界で初めて単一分子のTHz-STM発光に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、DA分子系を高い時空間分解能で自在に制御するために、①STMを用いたボトムアップのアプローチで様々な構造のDA分子二量体系を作成し、②独自に開発するTHz-STM発光分光法によりエキシトンの挙動を極限的な時空間分解能で計測する。 研究項目①を実現するために、学術変革A領域内の共同研究によりモデルDA分子系の検討を行うことで候補となるモデルDA分子系を計算化学により決め、更にSTMによりDおよびA分子をそれぞれ観察し、試料作成条件を調べたことから順調に進んでいると判断した。 研究項目②を実現するために、THz-STM発光分光法を単一分子系で実現するための実験を行った。単一分子のエレクトロルミネッセンスは非常に微弱であるため、シグナルを得るためには、最適な金属基板・絶縁体超薄膜・探針・分子を準備したうえで、高い繰り返し周波数でTHzパルスを発生させる必要がある。特に、THz光学系を新たに再構築することで50 MHzで高い強度を有するTHz光源を開発し、それによって単一分子へTHz-STM発光分光法を適用し、微弱ながら分子由来のシグナルを得ることに成功した。単一分子のTHz-STM発光は世界で初めての実現例であることから高く評価できると考えている。 以上の理由から、順調に進行していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、DA分子系を高い時空間分解能で自在に制御するために、①STMを用いたボトムアップのアプローチで様々な構造のDA分子二量体系を作成し、②独自に開発するTHz-STM発光分光法によりエキシトンの挙動を極限的な時空間分解能で計測する。 研究項目①を実現するために、学術変革A領域内の共同研究により決定したモデルDA分子系を実際に表面上に形成し、STM発光分光法を用いて光学特性の評価を行う。更に、研究項目②で実現する単一分子のTHz-STM時間分解発光分光法を適用し、DAモデル分子系の実時間挙動を調べる。 昨年度の研究により、世界で初めてTHz-STM発光分光法により単一分子発光を検出した。一方で、得られたシグナルは非常に微弱である。時間分解測定を行うと発光強度が時間軸で分解されてしまうことから、現状のシグナル強度では即座に時間分解発光測定を行うことはできない。したがって、今年度は得られたシグナルをベースにTHz-STM発光分光法を最適化していき、充分なシグナル強度が得られるように研究を進める。同時並行で、THz光学系についても発生方法から見直しを行い、更に高い繰り返し周波数が実現できないか検討をすすめる。 これらの改良に加えて、検出器側も時間分解発光測定ができるように、アバランシェフォトダイオード(APD)をベースとした時間分解発光測定システムを立ち上げて、単一分子時間分解STM発光測定を実現する。
|