2021 Fiscal Year Annual Research Report
準低温化学研究の開拓のための量子状態と反応温度の同時制御実験法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Next Generation Astrochemistry: Reconstruction of the Science Based on Fundamental Molecular Processes |
Project/Area Number |
21H05430
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高口 博志 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (40311188)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 状態選別光イオン化 / イオンガイド反応実験 / 低エネルギー衝突 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、準低温条件でのイオンガイド反応実験を行うための測定装置の拡張とその性能評価を行った。既存のレーザー光イオン化源に加えて、RF貯蔵式のイオンソースを製作した。 レーザー光イオン化による空間電荷効果が制限しているイオンビームの低速下限(低温下限)は、準低温反応実験の実現に重要な条件であり、この条件の改善のために直列二段式イオンガイド機構を製作した。共通の交流電場を持つ初段・二段目のイオンガイドに、それぞれ異なる直流電圧を重畳するRF電源を適用する仕様とした。相対的に直流電圧の低いイオンガイド中では高い並進速度のため安定したイオン経路が得られ、イオンの輸送損失は低く抑えられた。反応領域では高い直流電圧を印加することで、低衝突エネルギーでの反応条件が実現できる見通しが得られた。速度制御したNO+ビームを用いたイオンガイド反応実験を行い、生成イオンの信号を検出するに至った。二段式イオンガイドによる状態選別低エネルギー衝突実験の結果を本研究課題の途中成果としてまとめて、学会発表を行った。 電子衝撃イオン化法は、状態選別能と低エネルギー制御性に関して、レーザー光イオン化法と相補的な利点を持つが、生成できるイオンの種類の制限が本研究課題には重要である。共鳴イオン化分光法が確立されているイオン種が限られていることから、星間化学反応系を対象とする本研究課題の目的に沿って、RF貯蔵式のイオン源を製作した。前駆体試料分子により多様なイオン種を生成することができるが、一方で反応領域に輸送するまでのイオン経路に質量選別機構が必要となる。数値シミュレーションに基づき、四重極質量フィルターを備えた設計として、イオン源を製作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
状態選別・低衝突エネルギー反応実験法の実現と、星間化学反応系への適用に向けて研究を進めており、いずれも実験技術・実験装置の開発・改良が主な項目となっている。反応実験として、光イオン化源を用いたイオンガイド実験を行っているが、状態選別・低エネルギー条件での反応物イオンのモニターによってイオンビーム性能を評価するこれまでの段階から、生成物信号を検出しながら反応条件を探索する段階に移行した。反応物イオン強度に比べて3~4桁ほど小さい生成物イオン信号であるが、最終データとする信号を対象とした測定をもとにして、装置改良・開発の新しい方策が得られるようになった。当初の研究計画から反応セルにヘリウム冷凍機を設置して極低温反応実験を行うこととしており、反応温度を極低温まで下げる前提条件としてイオンの低速化が必要であったが、現実的な設計を検討できる状況となった。 星間化学反応系を対象とするために、これまでもレーザー光イオン化法によって生成してきたCH3+(メチルラジカルイオン)の状態選別・低速イオンビームの評価を行ってきたが、前駆体中性試料からの光解離過程を含むため、現状のイオンガイド反応実験を適用できるまでの十分なイオン強度および低速下限は得られなかった。光イオン化源によるイオンガイド実験装置はさらなる改良を継続することとする一方で、星間分子種を含む幅広いイオン種生成が可能なRF貯蔵式イオン源を製作した。Ar+を対象とした性能評価測定に取りかかった段階にあるが、イオンガイド反応実験に適用するための四重極質量フィルター機構を取り入れた。四重極質量選別は原理的には確立された技術であるが、簡便なRF電源システムを製作した。光イオン化源で使っていたパルス分子線から、連続波イオンビーム源となることで、真空装置の必要排気量が増大したが、大型真空ポンプを充当したことで対応した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、異なる直流電圧を重畳できる二段階イオンガイド法を製作したことで、低エネルギー衝突実験で得られる信号量およびエネルギー分解能が向上した。今年度は、イオンガイドの入射側・出射側の電極システムの改良を行う。イオンガイドへの入射エネルギーが高いほどイオン量の損失は少ないとされている。高い並進エネルギーでイオンガイドに効率よく反応物イオンを導入した後、二段階の直流電圧調節により反応セル内の衝突エネルギーを低くする。飛行時間質量分析のための直交パルス再加速電極への導入を行うイオンガイド出射側では、飛行距離を延長して質量分解能を向上させる。レーザー光イオン化源による反応物イオンの低速化の改良だけでなく、イオンガイド実験による反応断面積測定を進める。ここまでNO+とCH3+イオンを主に用いてきたが、(多環)芳香族イオンの光生成を行い、測定対象とする。 製作した四重極マスフィルター機構を持つRF貯蔵式イオン源の動作・性能を評価する。Ar+を用いた動作確認の後、星間化学反応系を対象とするためにO2H+、H3+、H3O+の生成条件を探索する。それぞれを効率よく生成する前駆体試料は先行研究でよく知られており、中性分子種へのプロトン移動反応速度の衝突エネルギー依存性を測定する。 装置開発・手法開拓に重点が置かれた研究課題(計画)であるが、星間化学研究に関して新しい意義と視点をもたらす反応データの測定を目指す。測定できるイオン種と反応条件が整備されてきたところで、装置性能の向上だけでなく、達成された技術で可能な測定を行う方針とする。ヘリウム冷凍機の反応セルへの設置については冷却装置の製作だけを目的化せず、対象とできるイオン種の低温反応が星間化学に与える知見を検討しながら、設計・製作を進める。
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