2021 Fiscal Year Annual Research Report
小惑星リュウグウの表面で独自に進行した有機物進化の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Next Generation Astrochemistry: Reconstruction of the Science Based on Fundamental Molecular Processes |
Project/Area Number |
21H05431
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 徹 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (80750455)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 小惑星 / リュウグウ / 宇宙風化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は小惑星リュウグウの表面で独自に起きる化学進化の解明を目指している。今年度は、炭素質の小惑リュウグウから持ち帰った試料の初期分析が始まり、 リュウグウ試料の初期分析に参画する形で、小惑星リュウグウ表面で進行する化学進化を理解することを試みた。具体的な研究方法として、京都大学で主に実施された初期分析に参加 し、小惑星リュウグウの宇宙風化に関係する組織の同定を試みた。分析手法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を主に用いた。最初に、粒子の表面の微細な構造や化学組成及び 鉱物種を分析することで、太陽風の打ち込みや微小隕石衝突によって変成した微細組織の探索を行なった。一方、リュウグウの初期分析チームは多くの海外研究機関が参加しているため、 リュウグウ粒子の試料配布容器からの取り出しや固定、初期的な試料の記載を行なったのち、海外研究機関へ試料を送付することで研究協力の推進に貢献した。リュウ グウ試料の主成分は、層状ケイ酸塩と呼ばれる含水鉱物がほとんどの体積を占めている。こうした鉱物が宇宙風化を受けた結果翔j流産物はこれまでに誰も見たことがなかったため、宇宙風化組織の同定は困難であったが、結晶構造の微細な変化など証拠を電子顕微鏡観察によって見つけることで、リュウグウの試料に刻まれた宇宙風化の痕跡が残されているこ とを示すデータを得た。加えて、小惑星における水質変成の産物として知られている硫化鉄や磁鉄鉱、炭酸塩鉱物の表面でも宇宙風化の組織を記載した。これらの結果から、 リュウグウの表面の宇宙環境の中で変化した鉱物の特徴をおおまかにと らえることを達成した。こうした初期的な研究成果の詳細は、秋・春に開催された国際 学会(日本、 アメリカ)にて発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では水や有機物に富む小惑星リュウグウの表面で起きる化学進化の解明を目指している。本年度は、小惑星リュウグウの試料を直接分析する機会を得たこと で、リュウグウの試料の観察から炭素質小惑星の宇宙風化の証拠を得た。リュウグウ試料の分析によって、当初から予想していた鉄金属を宇宙風化産物として見つけることができた。本課題において、小惑星表面で生成した金属鉄は有機物合成の触媒になる可能性があると提案しており、有機物の変化に着目した化学進化を理解する上で研究を進展させることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はリュウグウ試料に刻まれた天然の宇宙風化の組織に注目して記載学的な研究を行った。その結果、リュウグウの表面で実際にどのような鉱物の変化が進行したのかに ついて、TEM観察からナノスケールでの変化をとらえることができた。一方で宇宙風化の素過程を明らかにする上では、宇宙環境を模擬した実験も重要であり、今後は国際公募分析によってリュウグウ試料の特徴をより深く理解することを目指し、一方で実験的な手法からも宇宙風化による化学進化の解明を目指したい。
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