2021 Fiscal Year Annual Research Report
星間化学反応の全貌解明に向けた次世代中性分子検出システムの開発
Publicly Offered Research
Project Area | Next Generation Astrochemistry: Reconstruction of the Science Based on Fundamental Molecular Processes |
Project/Area Number |
21H05443
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
奥村 拓馬 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (70855030)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 中性分子検出器 / 超伝導検出器 / 星間化学反応 / 原子分子物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、より多様かつ複雑になる惑星系形成領域の気相反応の全貌解明に向けて、宇宙X線観測の分野で躍進的発展を遂げている超伝導検出器TESを導入した、新たな中性分子検出システムの開発を目指す。特に、惑星系形成領域に代表される高温環境(< 300 K)での反応観測が今後重要になるであろうことを鑑み、本研究では300 K反応領域と接続しても運用可能な中性分子検出技術を確立する。 TESは金属が超伝導転移する際の電気抵抗の変化を利用する検出器であり、動作させるためには本体を100 mK以下の極低温に維持する必要がある。X線測定時には検出器前に輻射遮蔽用の窓材を取り付けるが、中性分子検出システムとして利用する際には窓なしで検出器本体への熱輻射の流入を防がなければならない。輻射の影響は温度の4乗に比例するため、300 Kの反応でも利用可能な中性分子検出システムを開発するには、輻射による赤外線を徹底的に遮蔽する必要がある。2021年度は既存システムを改良し、長さ1 mの二重輻射シールドと複数枚の銅製フィルタを検出器前に設置した。この条件で検出器を冷却したところ、300 K反応チャンバーと接続した状態で検出器ステージの温度を50 mK(hold time < 24時間)まで冷却することに成功し、またTESの超伝導転移も確認できた。次に、検出システムに運動エネルギー3-15 keVの中性水素原子ビームを導入し、TESによる水素原子の運動エネルギースペクトル測定に成功した。本年度の成果は、TESによる中性分子検出器の開発に向けた大きな一歩である。一方、運動エネルギースペクトルのエネルギー分解能は、X線検出時のエネルギー分解能よりも1桁以上悪く、実際に気相反応の測定に用いるには不十分である。現在、分解能悪化の原因を探索している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TES検出器を300 K反応領域が見える環境で運用するためには、徹底した輻射対策が必要である。本年度は、輻射シールドの開発を始めとする輻射対策の導入を行い、その結果として300 K反応チャンバーを接続した条件においてもTES検出器を動作させることに成功した。更に、実際に水素原子ビームをTES検出システムへ導入することで、水素原子の運動エネルギースペクトルを測定することにも成功した。一方で運動エネルギー分解能は、TES検出器の性能から予想される値よりも低く、結果として質量分解能も本研究の目標値に到達していない。分解能悪化の要因として、輻射遮蔽のために検出器前に設置したシールドやフィルタによる中性分子の反跳の影響が考えられる。反跳の影響の低減と輻射の遮蔽を両立するため、より効率的に赤外線を遮断できる微小孔赤外線フィルタの設計・開発にも着手した。全体として、必ずしも想定通りではないが、実験計画はおおむね予定通りに進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度開発した微小孔赤外線フィルタを導入し、反跳の影響を減らした状態で中性分子検出システムの性能評価を行う。TES検出器での中性分子測定は世界で初めての試みであり、実際にどの程度の質量分解能を実現可能なのか、また検出器の装置関数はX線検出の場合と比較してどのように変化するのかなど、検出器性能の基礎的な知見が未だ十分ではない。TES装置関数のエネルギー・質量依存性を実験・シミュレーションの両面から検討し、実際に気相反応の計測に検出システムを適用できるよう、基礎実験技術の確立を目指す。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Dynamical Response of Transition-Edge Sensor Microcalorimeters to a Pulsed Charged-Particle Beam2021
Author(s)
T. Okumura, T. Azuma, D. A. Bennett, P. Caradonna, I. Chiu, W. B. Doriese, M. S. Durkin, J. W. Fowler, J. D. Gard, T. Hashimoto, R. Hayakawa, G. C. Hilton, Y. Ichinohe, P. Indelicato, T. Isobe, S. Kanda, M. Katsuragawa, N. Kawamura, Y. Kino, K. Mineet al.
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Journal Title
IEEE Transactions on Applied Superconductivity
Volume: 31
Pages: 2101704
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Deexcitation Dynamics of Muonic Atoms Revealed by High-Precision Spectroscopy of Electronic K X rays2021
Author(s)
T. Okumura, T. Azuma, D. A. Bennett, P. Caradonna, I. Chiu, W. B. Doriese, M. S. Durkin, J. W. Fowler, J. D. Gard, T. Hashimoto, R. Hayakawa, G. C. Hilton, Y. Ichinohe, P. Indelicato, T. Isobe, S. Kanda, D. Kato, M. Katsuragawa, N. Kawamura, Y. Kino et al.
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 127
Pages: 53001
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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