2021 Fiscal Year Annual Research Report
高密度分子集積構造を活用した新しい光電子機能材料の創出
Publicly Offered Research
Project Area | Condensed Conjugation Molecular Physics and Chemistry: Revisiting "Electronic Conjugation" Leading to Innovative Physical Properties of Molecular Materials |
Project/Area Number |
21H05482
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齊藤 尚平 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30580071)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | V字型集積構造 / 光軟化 / 液晶 / 凝集力 / 接着 / 光応答材料 / 励起状態芳香族性 / FLAP |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ボルトやナットを用いた従来の接合技術に代わって、軽量な有機接着剤がさらに活躍の場を広げており、自動車・飛行機・IT・半導体・ディスプレイなどの各方面で新しい機能接着技術への期待が高まっている。このような背景の中、研究代表者は独自の有機材料設計に基づいて、紫外光(LED)照射でガラス基板界面における融解と剥離を引き起こす「光で剥がせる接着材料Light-Melt Adhesive」を発明した。しかし、接着膜の作成や可逆的な再接着には100 °C以上の高温加熱が必要であり、リアルタイムに界面の接着力を光制御することはできていない。有機合成ステップが多く大量生産が難しいなど、いまだに実用を阻んでいる制約は多い。そこで本研究では、従来の光反応駆動型の界面剥離とは全く異なる光応答メカニズムである「励起状態芳香族性」を採用し、従来のライトメルト接着材料の実質的な応用を阻んでいる課題(再接着に高温を必要とする、大量合成ができないなど)を解決することを目的とした。 当該年度は、トリフェニレンを両翼にもつ羽ばたく分子TP-FLAP液晶の薄膜が凝集力と接着力の高いV字型集積構造を形成する一方で、UV照射中のみ軟化する挙動を定量評価した。また、比較化合物の解析やレーザー科学者との共同研究により、光軟化挙動の主要因が光熱効果ではなく、励起状態芳香族性の発現に起因する乱れた散逸構造の蓄積であることを支持するデータを集めることができた。この新しい光応答メカニズムの最大の利点は、光照射をONにしている間だけ界面近傍で材料が軟化する一方、光照射をOFFにした途端に散逸構造が消失して元の集積構造へと戻り、再び材料が固くなり接着力が回復することである。すなわち、薄膜界面における一時的な軟化を、光照射でリアルタイムかつ空間特異的に引き出すことができるため、剥離だけでなく、薄膜化や再接着、さらには接着以外の応用が拓けることも大いに期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
励起状態芳香族性を示す分子TP-FLAPを設計し、光励起時に超高速で起こる分子構造の平面化(コンフォメーション変化)を利用して、V字型で集積したパッキング構造を界面近傍において乱し、一時的に接着薄膜の凝集力を低下させる新しい界面剥離技術を開拓した。 独自の8員環形成反応の条件を用いて、購入可能な原料からわずか3ステップで最終生成物が得られた。従来のライトメルト接着材料(アントラセンFLAP)と比較すると格段にコストが抑えられ、再結晶も可能である。この分子設計では、光反応部位を導入する必要がないため分子骨格を単純化でき、大量生産の実現性が高い。 一方で、高い凝集力の源となるV字型の分子集積能を維持していることを確かめるため、TP-FLAPの炭素鎖を短くした類縁体を別途合成し、単結晶X線構造解析を実施した。その結果、期待した通り、中央の8員環が折れ曲がり構造をとることでトリフェニレン部位が効果的な二重πスタック構造を形成した、カラムナー集積のパッキング様式が確認できた。TP-FLAPの薄膜の光吸収帯は主にUV領域に位置し、可視領域で透明であるため、光学機器の接着などにも応用が期待できる。熱分解温度(5%重量減少温度)は384 °Cと耐熱性に優れ、昇温・降温過程ともに約70 °Cから約155 °Cまでの間で液晶相を示した。作製したTP-FLAP薄膜の接着試験片は室温でおよそ1.7 MPaの接着力を示した。日用品の実用接着強度がおよそ1 MPaであるので、十分に高い値である。一方、365 nmで強度700 mW/cm2のUV光をガラス越しにTP-FLAP薄膜に照射しながら接着力を測定したところ、接着力が半分以下の0.8 MPaまで顕著に低下した。さらに重要なことに、光照射をOFFにしてから再び接着力を測定すると、元の1.7 MPaまで接着力が戻る現象が確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
先進国における生産年齢人口の急速な落ち込みに伴って、3Dプリンターや産業用ロボットによる製造の自動化、計算やデータを活用した研究開発の効率化が喫緊の社会課題となっている。そこで、材料化学の観点から、機械工学とデータ科学の現状を眺めてみると、金属などの硬い材料を用いたクラシカルなロボット開発現場では、部材となりうる「材料」は出尽くしたと捉えられている。一方で、柔らかいソフトロボットの開発や低エネルギー消費のリサイクルに向いている有機材料は、今も著しい進化を遂げている。例として、異なるレーザー波長で光異性化と光重合を同時に起こすフォトクロミック分子は、3Dプリンターの圧倒的高速化と精密化を実現する光開始剤としてXolography技術を誕生させた(Martin Regehly, Stefan Hecht et al., Nature 2020, 588, 620)。これは光硬化樹脂に代表される、「光照射でモノを硬化する」技術の最先端である。一方、本研究の目的である「光でモノを軟化・流動化させる」技術は、特に接着剥離の用途で産業界からの期待が大きく、最近になって欧米や中国からも本技術に関する総説論文が出ている(Adv. Optical Mater. 2019, 7, 1900230; SmartMat., 2020, 1, e1012)。今後、世界的な潮流として、さらに光剥離技術は実用に近づいていくと予想されるが、そこで克服すべき課題として最後まで残るのは、やはりコストの問題であろう。本研究では新しい光応答メカニズムを採用することで光機能分子骨格FLAPの合成の効率化、大スケール化に成功した。しかし、さらに現実的な材料にするには、あくまでベースは従来の高分子を用いて、光機能分子を低濃度で組み込むだけで光機能を高分子材料に付与できるような、分子設計の次の「材料設計」が必要である。
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[Presentation] Real-time control of liquid crystalline adhesive by turning ultraviolet light on and off2021
Author(s)
Tomoaki Konishi, Yuri Saida, Wataru Yajima, Ryo Shikata, Masaki Hada, Yuushi Shimoda, Kiyoshi Miyata, Yusuke Yoneda, Hikaru Kuramochi, Yumi Nakaike, Mitsuo Hara, Ryuma Sato, Takuya Yamakado, Ryota Kotani, Shohei Saito
Organizer
2021年光化学討論会 (2021)、オンライン
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