2021 Fiscal Year Annual Research Report
反芳香族分子の高密度積層系に誘起される開殻性と三次元芳香族性の学理構築と量子設計
Publicly Offered Research
Project Area | Condensed Conjugation Molecular Physics and Chemistry: Revisiting "Electronic Conjugation" Leading to Innovative Physical Properties of Molecular Materials |
Project/Area Number |
21H05489
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岸 亮平 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90452408)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 三次元芳香族性 / 開殻性 / π積層構造 / 反芳香族分子 / 分子間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、弱開殻性反芳香族分子の高密度π積層系を対象とし、そこに生じる強い分子間相互作用が、分子内・分子間の電子の局在性と非局在性の変化を通じて発現させる、新奇な電子物性を開拓するための量子論的設計の指針と、それを通じた結合と共役の新概念の構築を目指す。 本年度はまず、反芳香族分子のモデルとして、平面構造のシクロオクタテトラエンや結合長交替のないシクロブタジエンを積層させた有限N量体モデルについて、Nの増大に伴う芳香族性の変化を解析した。その結果、等距離に積層した3量体(N = 3)では面間距離を小さくした場合に、3量体中央の分子において顕著な芳香族性の増大が見られた。このような位置依存性は積層方向のフロンティア軌道の節構造と対応して現れることがN = 5, 7などの計算結果から明らかになった。このことは有限N量体の場合に、各分子の位置により電子構造が大きく変化することを示唆する。また、Nを増大させることで、1次元π積層系の芳香族性の収束傾向を調べた。その結果、集合系の中央部分から徐々に芳香族性の指標が収束すること、積層距離によって収束の様子が異なることが明らかになった。 また、近接した分子積層や電子物性の変化を実現するための単分子の設計の1つとして、ヘテロ元素の導入効果が考えられる。アントラセンにホウ素と窒素を置換した場合のフロンティア電子構造と光応答物性の変化について量子化学計算を用いて検討した。その結果、ヘテロ元素であるBとNの置換位置をお互いに空間的に離すことで、フロンティア軌道の重なりが小さくなり、交互炭化水素では通常小さな交換積分項が増大することが明らかになった。この交換積分項は、三次非線形物性の指標である第二超分極率γの大きさや符号に影響を与えることが予想されていたが、本研究で設計したBN置換アントラセンにおいて負の静的γが得られる可能性が理論的に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的の1つである、三次元芳香族性の分子数依存性の解明について、モデルに対する理論解析から、基本的な構造-物性相関に関する知見が得られた。また、ヘテロ元素の場合においても、以前より開発していた物理パラメータ解析の方法で光応答物性の制御指針に有用な情報が引き出せることを明らかにできた。R4年度の研究を推進する上でR3年度中に必要な基礎的な解析がおおよそ完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
前述した三次元芳香族性の分子数依存性、ヘテロ元素導入による電子構造制御についての論文を年度初頭に投稿する。一方、分子数依存性の検討はモデル系による電子状態部分の解析であり、i)振電相互作用による積層に伴う構造緩和、ii)実在分子系における三次元芳香族性の発現、についてR4年度に着手し、具体的な設計指針の提案を行う。また物理パラメータに基づく解析から、高密度積層系の分子内・分子間の非局在性変化を定量評価し、これらを制御パラメータとした分子・分子集合系の設計概念構築や新規共役概念の発展につなげることを目指す。
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Research Products
(31 results)