2021 Fiscal Year Annual Research Report
高反応性分子を活用した高密度アレーノファンの合成
Publicly Offered Research
Project Area | Condensed Conjugation Molecular Physics and Chemistry: Revisiting "Electronic Conjugation" Leading to Innovative Physical Properties of Molecular Materials |
Project/Area Number |
21H05498
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
羽村 季之 関西学院大学, 生命環境学部, 教授 (20323785)
|
Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
Keywords | 高密度アレーノファン / ポリアセン / ビフェニレン / イソアセノフラン / 環化二量化 / ベルト状分子 / π電子密集型分子 / スルースペース相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では二つのポリアセンやビフェニレンなどの多環式芳香族化合物および反芳香族化合物をアンサ鎖で重ね合わせて分子間空隙を可能な限り縮小させた高密度アレーノファンを効率良く合成するための一般性の高い合成手法を開発することを目的としている。特に、ポリアセン系分子の環化二量化やπ電子密集型分子の化学修飾によって合成可能になった近接π電子系の芳香族-芳香族間、芳香族-反芳香族間、さらには反芳香族-反芳香族間に働く高密度共役に基づく各種物性を明らかにすることを目指している。 既に我々は、電子受容部位を有するイソアセノフランの二次軌道相互作用に基づくエンド選択的な自己環形成反応を利用して、ベルト状構造の構築が可能であることを見出している。本年は、より縮環数の大きなイソアセノフランを用いたベルト型分子の合成と各種ベルト状分子の官能基変換を試みた。その結果、ベンゾシクロブテノールとエポキシナフタレンの環化付加反応を活用した新規骨格伸長法を開発し、これを利用したイソアセノフランの発生と環化二量化を鍵として、縮環数の大きなベルト状分子の合成にも成功した。また、この方法によって得られるポリケトン構造を有するベルト状分子の反応性を精査した結果、高温では逆反応によってイソアセノフランが生じていることがクロスオーバー実験によって確認された。一方、これを還元して得られるポリオール誘導体は熱的に安定であることが分かった。これらの知見は、ベルト状分子の各種変換による高密度アレーノファンやシクラセンの合成に向けて有用な知見である。さらに、ベルト状ポリケトンおよびベルト状ポリオールのX線結晶構造解析の結果、ベルト状構造を構成する二つの多環式芳香族間は近接していることが明らかとなり、分子軌道計算からこれらの芳香族間にはスルースペース相互作用が生じていることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子受容部位を有するイソアセノフランの環化二量化反応を利用して、ベルト状構造が迅速に構築できることを明らかにした。このベルト状分子構築における重要なポイントは、以下の通りである。(1)環化二量化はフラン環とキノン部位の二次軌道相互作用によりエンド選択的に起こるため、二量体(ベルト状構造)を効率良く構築できる。(2)ベルト状分子を高温で加熱すると逆反応が起こるが、その割合は僅かであり、ベルト状分子は熱力学的に有利である。この研究を展開して、より高次のπ共役構造を合成するには、イソアセノフランの効率的な発生法の開発が鍵となるが、キノジメタンの環化付加反応を利用した骨格伸長によるアプローチが有効であることが明らかとなり、この手法を利用した高次構造の構築が期待できる。また、合成可能になったベルト状分子は、対応する部分構造であるアントラキノンに比べて電子受容性が高く、上部のベンゼン環と下部のキノン部位で軌道相互作用に起因することが理論計算より示唆されている。この結果は、X線結晶構造解析により上下の面間距離が近接していることからも理解できるが、今後、各種アレーノファンの合成を通じて、高密度共役に基づく新たな物性・機能が開拓されるものと期待できる。 また、ベンザインの二量化を利用してビフェニレン構造を有するイソベンゾフラン前駆体の合成を達成し、これより発生させたイソアセノフランの環化二量化反応を検討できる状況にある。したがって、反芳香族部位を持つアレーノファンの合成に向けて順調に計画が進んでいると言える。 さらに、ベンザインの二量化を鍵反応としてシクロブタジテトラセンの合成にも成功し、これの光二量化を利用したベルト構造の構築を集中的に検討できる状況にあり、計画通りに研究が進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
より縮環数の大きなイソアセノフランを用いたベルト型分子の合成とこれの還元・芳香族化によるアセンダイマーへの変換を試み、新規に得られるD-D型分子の各種物性測定により、空間的電子相互作用の解明を行う。また、この合成手法をアセン骨格に窒素原子を導入したアザアセンの合成にも応用し、アクセプター性の強い芳香族分子間のA-A型の空間的電子相互作用の詳細を明らかにする。さらに、この自己環形成反応を交差型の反応に展開し、電子供与性芳香族化合物と電子受容性芳香族化合物を近接させたD-A型のベルト状分子の合成にも取り組み、これらの性質を解明する。さらに、ベルト型分子の二つの芳香族間の距離をより縮めるため、アルキニル基をアセン骨格に導入した分子を用いて、これのアルキンメタセシスあるいはオレフィンメタセシスによる二つの芳香環の面環距離のさらなる近接化を図り、諸物性の解明を行う。 また、ドナー・アクセプター型構造を有するイソアセノフランのエンド選択的自己環形成反応を応用・展開して、反芳香族分子を重ね合わせたアレーノファンの合成を検討する。具体的には、イソアセノフラン発生の最適条件を精査するとともに、自己環形成反応を実現するための反応条件、置換基効果を重層的に調べ、ベルト構造構築に向けて鋭意検討する。 さらに、ポリアセンの光二量化を利用したベルト構造の構築も検討する。ポリアセンは光照射下、[4+4]環化付加反応を起こすが、この反応をシクロブタジポリアセンに展開し、左右それぞれのアセン骨格のベンゼン環同士による光二量化の可能性を探る。この際、芳香族骨格の末端に長鎖アルキル基を導入した高次ビフェニレンも合成し、アルキル鎖が分子間π-π相互作用に及ぼす効果を調査し、反応する二つの芳香環面の位置を精密に制御する方法を探る。
|