2021 Fiscal Year Annual Research Report
極限波面揺らぎ補正とその応用に関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | Comprehensive understanding of scattering and fluctuated fields and science of clairvoyance |
Project/Area Number |
21H05579
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村上 尚史 北海道大学, 工学研究院, 講師 (80450188)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 補償光学 / コロナグラフ / 光波面制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、散乱・揺らぎ場の高精度な補正を目指し、新たに提案した誤差拡散揺らぎ補正法を開発することである。誤差拡散揺らぎ補正法とは、ハーフトーン処理(滑らかな画像をドットで表現する手法)を光波面制御に応用する手法である。これにより、位相制御分解能が高くない波面補正デバイスでも、大局的に高精度な揺らぎ補正が可能になると期待される。本研究課題では、ドットを表現するのに有利な空間光変調器 (SLM) を利用した誤差拡散揺らぎ補正法の原理実証を行うとともに、さまざまな分野への応用展開を目指している。 提案手法の応用展開の一つとして、太陽系外惑星(太陽以外の恒星を公転する惑星)を探査するための観測技術が挙げられる。微弱な惑星光を観測するためには、観測の障害となる明るい恒星光を強力に除去することが求められる。恒星光を除去する観測装置はコロナグラフと呼ばれ、さまざまな手法が提案されている。しかしながら、観測装置内の光学収差等に起因して光波面に揺らぎが生じると、恒星光が除去できずにスペックルとなって現れる。そこで、高精度な光波面制御により恒星の残留スペックルをさらに除去する(恒星像に「ダークホール」を形成する)技術が求められる。本研究課題では、誤差拡散揺らぎ補正法の導入したダークホール制御技術の研究開発を推進する。 2021年度の実施項目は、以下の通りである。まず、究極の科学目標である地球型惑星探査に必要とされる、コロナグラフ用光デバイスの設計および試作を行った。また、試作した光デバイスの試験を行い、観測性能の評価を実施した。さらに、さまざまな手法のコロナグラフと誤差拡散揺らぎ補正法を組み合わせた室内試験を実施し、提案する手法の有効性を実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生命の存在が期待される地球型系外惑星を探査するためには、主星である恒星光を10桁オーダに除去しなければならないと言われている。代表者の研究グループでは、このようなチャレンジングな技術目標に向け、フォトニック結晶波長板にもとづく8分割位相マスクの開発を推進してきた。8分割位相マスクは理論上、点光源とみなせる恒星光を完全に除去することが可能である。また、広い波長域で恒星光を除去するため、多層波長板構造による広帯域化の開発研究も行っている。しかしながら、将来の地上大型望遠鏡やスペース望遠鏡での実観測では、望遠鏡のポインティング精度や、無視できない恒星サイズに起因した恒星の射入射光が除去できず、惑星観測を妨げてしまうと予想される。この課題を解決するため、本研究では、より射入射に強い12分割位相マスク(単層および3層)の設計、試作を新たに実施した。試作したマスクに対して、北海道大学に構築したコロナグラフ室内シミュレータにおいて、波長特性の性能評価を行った。 これと並行して、SLMを用いた誤差拡散揺らぎ補正法の室内実証試験も推進した。以前に試作していた8分割位相マスクや、他のコロナグラフ法と組み合わせた実証試験などを実施した。波面補正デバイスの位相分解能が高くない状況下において誤差拡散揺らぎ補正を適用した結果、恒星除去性能の改善が確認され、8桁オーダ―の優れた性能を実証することができた。さらに特定の条件においては、9桁オーダという高い恒星除去性能の実証にも成功した。 以上の成果を鑑みて、研究計画に対しておおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の成果を受けて、今後の推進方策は以下のように計画している。コロナグラフ用光デバイス開発については、試作した12分割位相マスクの性能評価を継続することで、特に3層位相マスクで性能がリミットされる要因を探求する。また、コロナグラフと誤差拡散揺らぎ補正法を組み合わせた技術開発も継続し、特に2021年度に試作した12分割位相マスクでの性能評価などを計画している。 さらに、提案手法のもう一つの応用展開として、汎用波面センサーを検討している。代表者の研究グループでは、系外惑星探査のためのコロナグラフの特性を活用した、汎用の波面センサーを提案しており、その原理実証を進めている。これまでに提案されている多くのコロナグラフは原理上、点光源とみなせる恒星光(すなわち、装置に入射する完全な平面波)を完全に除去することができる。しかしながら、光波面にわずかな揺らぎが存在すると、恒星光は除去できずに、散乱光(スペックル光)が惑星探査の障害となってしまう。代表者の研究グループは、コロナグラフのこの特性を活用することにより、揺らぎに対して高感度な波面センサーの実現を目指している。ダークホール制御によりスペックル光強度レベルを低減させることで、揺らぎセンシング感度が向上すると期待している。2022年度は、提案する波面センサーの室内実証試験の推進(揺らぎを測定するためのハードウェア、データを解析するためのソフトウェア両面の技術の確立)を目指すとともに、誤差拡散揺らぎ補正法の導入について検討する。
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Research Products
(6 results)