2021 Fiscal Year Annual Research Report
植物の不均一環境変動応答を支える細胞内酸化還元力バランス制御
Publicly Offered Research
Project Area | Multi-layered regulatory system of plant resilience under fluctuating environment |
Project/Area Number |
21H05647
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 転写開始点制御 / シロイヌナズナ / NADKc |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の成長は、光合成等により物質生産を行う同化と、呼吸等により物質を分解することでエネルギーを得る異化の絶妙な代謝バランスにより規定される。自然環境下で植物は、様々に変動する環境条件に応答して細胞内代謝の切り換えを行っていると考えられる。NAD(P)(H)は全ての生物が生体内の酸化還元反応に用いる電子伝達物質であり、その量やバランスの変化は代謝に大きな影響をもたらす。本研究では、不均一環境下におけるNAD(P)(H)バランス制御のメカニズムを解明し、植物の成長と物質生産を統御するレジリエンス機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 シロイヌナズナにおいて、フィトクロム依存的な転写開始点制御を受ける可能性がある候補遺伝子として見出されていたNADKcについて、実際に転写されている分子種の同定をRACE法により行った。その結果、転写開始点制御に加え、選択的スプライシングにより1つの遺伝子から合計4種類の翻訳産物がつくられている可能性が示された。NADKcはカルモジュリン/カルシウム依存的なNADキナーゼ活性を指標として精製された分子種であり、これまでに知られていたNADKとは相同性を示さない。存在が示された4種類の転写産物は、すべて同一のフレームにより翻訳されるため、長さだけが異なる分子種となっていた。このため、細胞内局在の決定や、基質特異性、酵素活性の制御に必要なドメインの有無が異なる分子種が存在することが考えられた。今後、これらの分子種が実際に機能を持っているかをリコンビナントタンパク質を用いた生化学的解析や、変異体を用いた解析により明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シロイヌナズナにおいて、フィトクロム依存的な転写開始点制御を受ける可能性がある候補遺伝子として見出されていたNADKcについて特に注目して研究を行った。NADKcはカルモジュリン/カルシウム依存的なNADキナーゼであり、これまでに知られていたNADKとは相同性を示さない。その変異体は、フラジェリンタンパク質によって誘導されるOxidative burstが抑制されることから、カルシウムシグナルが発動される特別な条件下でのみ活性を示すNADKとして機能すると考えられている。これまでに、実際に転写されている分子種をRACE法により同定した結果、転写開始点制御に加え、選択的スプライシングにより4種類のmRNAが転写されていると考えられた。NADKcは、カルモジュリン結合部位、キナーゼドメイン、細胞内局在に必要と考えられるN末領域などの機能ドメインを有する。4種類の翻訳産物はそれぞれこれらの機能ドメインを段階的に欠失すると考えられた。このため、これらは異なる細胞内局在、異なる生化学的性質を持つと考え、大腸菌を用いたリコンビナントタンパク質の精製を試みている。複数のタグを検討した結果、最も可溶化がたやすかったMBPや、サイズが小さくタンパク質に対する機能阻害の可能性が最も低いと考えられたHis-tagを選び、それぞれの分子種の精製を試みている。これまでに1番、2番目に長い分子種の精製に成功しており、NADKc活性の検出にも成功している。このため、概ね順調に研究は進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
4種類の長さの異なるNADKcタンパク質の生化学的解析のため、大腸菌を用いたリコンビナントタンパク質の精製を引き続きおこなう。これまでにMBPタグを用いて、1番、2番目に長い分子種の精製とNADKc活性の検出に成功したが、残る2種類のタンパク質については精製は成功したものの酵素活性は検出されなかった。特に3番目の分子種についてはキナーゼドメインが存在することから、これがカルモジュリンドメインを欠失したために活性が消失したものなのか、MBPタグによる二次的な影響なのかを検討するため、Hisタグを用いたリコンビナントタンパク質の取得も引き続き行うこととした。また、ドメイン構造の変化により、基質が従来のものと異なる可能性についても検討を進める予定である。また、シロイヌナズナ変異体を入手していることから、これに4種類の分子種を発現させることにより、どの分子種が変異体における表現型の発現に寄与しているのかを明らかにする予定である。これにより、植物のストレス応答における転写開始点制御の重要性を示したい。
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