2021 Fiscal Year Annual Research Report
Effects of critical period manipulation on the olfactory imprinting memory
Publicly Offered Research
Project Area | Inducing lifelong plasticity (iPlasticity) by brain rejuvenation: elucidation and manipulation of critical period mechanisms |
Project/Area Number |
21H05684
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
坂野 仁 福井大学, 学術研究院医学系部門, 特命教授 (90262154)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 臨界期 / 嗅覚 / 刷り込み / 神経回路 / セマフォリン7A / プレキシンC1 / 遺伝子改変マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
生物は、個体や種の存続のために、先天的な本能を司る神経回路によって、エサの探索や仲間の識別、天敵からの回避などの行動出力を行っている。しかしこれら先天的な情動や行動の指令も、幼少の環境に適応可能な時期「臨界期」に、外界からの感覚情報によって、脳内の神経回路に変化が生じ、生涯に渡って影響されることがある。このような現象は「刷り込み」として、百年以上前にローレンツ博士らが報告している。卵から孵化した直後のアヒルが最初に見た動く物体を親と認識し、後追いする現象は、視覚の「刷り込み」である。またマスは、幼魚時に嗅覚で川の環境を「刷り込み」記憶し、外洋で成長したのち産卵時期になると、海から自分が生まれ育った川の匂いを頼りに遡上することが知られている。しかしこれらの研究では、どのような分子基盤で臨界期が定められ、どのような感覚情報で脳内の神経回路に変化が生じ、刷り込みが成立するのかについて、ほとんど未解明である。 当グループは長年マウス嗅覚系の研究を行い、嗅覚神経回路を形成する分子機構などを解明してきた。その過程で、例え先天的に「嫌い」なニオイであっても、臨界期に嗅がせておくことによって、成長後もそのニオイを「好き」になるという、嗅覚を介した刷り込み現象をマウスで発見した。ニオイを嗅がせる時期を変えてみたところ、刷り込みは生後一週間に限って可能であり、それ以降に刷り込みは成立しなかった。そこで、ニオイ刷り込みによって影響を受ける脳領域を特定するため、神経活動の指標となるEgr1やc-Fosの発現を、脳全体に渡って網羅的に解析した。その結果、刷り込みによって抑制された領域と、新たに活性化するようになった領域をいくつか見出した。今後は、それらの領域がどのような情報処理に関わっているかを調べるために、破壊実験等によって解析していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス嗅覚系を介した刷り込み現象に関して、臨界期の神経活動に依存して相互作用するセマフォリン7A (Sema7A)分子とプレキシンC1 (PlxnC1)分子が、特定の神経回路接続を増強することを見出し、その結果をeLifeに論文として発表することができたから。更にその後の研究から、刷り込みによって影響を受ける脳領域を特定することにも成功しているので。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、マウスには生後早期にニオイ刷り込みの臨界期があり、臨界期に任意のニオイを嗅がせておくと、例えそのニオイが先天的に忌避性のニオイ(4MTなど)であっても、成体となった後もそのニオイに対して誘引・愛着行動を示すようになることを見出した。そこで今後は、刷り込み記憶に誘引的質感を付与する仕組みを、分子・神経回路レベルで明らかにすると共に、正の刷り込み記憶がどのようにして忌避性の先天的判断を抑制するかについて、神経回路レベルで明らかにする。その為に、ニオイを嗅いだ時に活性化する脳内領野を網羅的に解析し、刷り込みの有無によってどのような変化が生じるかについて詳細に調べる。具体的には、immediate early gene (c-fosなど)の発現を指標にin situハイブリダイゼーション法を行いて解析する。当グループは既に、先天的に忌避性のニオイである4MTを嗅がせると、扁桃体(皮質核、中心核、基底外側部)や分界条床核などが活性化され、忌避行動やストレスホルモンの分泌が誘導されることを確認している。そこで、臨界期に4MTを刷り込んだマウスを用いて、これらの部位の活性が抑制されているかを調べると共に、新たに活性化される部位がないかを探索する。これらの解析を通じて、ニオイ刷り込み記憶が脳内にどのようにして蓄えられるのかを明らかにする。
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