2021 Fiscal Year Annual Research Report
翻訳途上の新生鎖に隠された新しい仕組みによって促進されるタンパク質の折り畳み機構
Publicly Offered Research
Project Area | Multifaceted Proteins: Expanding and Transformative Protein World |
Project/Area Number |
21H05711
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
門倉 広 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70224558)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | マルチドメインタンパク質 / 新生鎖 / フォールディング / ジスルフィド結合形成 / 哺乳動物細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
LDL受容体(LDLR)は、血中の悪玉コレステロールを細胞内に取り込むタンパク質であり、ジスルフィド結合は7個のRドメインと3個のEGFドメインに3本ずつ計30本存在する。LDLRのようなマルチドメインタンパク質では、自身の立体構造形成を効率よく進行させるため、その新生鎖中には未同定の様々な仕組みが隠されていると予想されるが、その実態は不明である。この点を解明するための研究を開始し、2021年度は、次の実績を得た。 1)LDLR上に作成した様々な変異体を使った解析から、LDLRのN末端に存在するRドメインの折り畳みには、その遥か下流に存在するβ-プロペラの第3サブドメイン中に存在する塩基性アミノ酸のクラスターが必要であることを示唆する結果を得た。更に、この結果とLDLRの3次元構造から、この領域が翻訳時に働くことが、折り畳み促進に重要であることが強く示唆された。 2) 折り畳みで生じるひっぱり力によって翻訳停止が解除され得ることから、翻訳停止とその解除を繰り返すことによって、タンパク質がドメイン単位で効率よく折り畳まれる可能性がある。シグナル配列を欠くため折り畳まれないLDLR変異体をコントロールとして利用し解析を進めたところ、翻訳後に小胞体へ輸送されるLDLRの存在が解析を困難にすることが判明した。これは問題だが、様々な方法を試した結果、後者の分子を除去する巧妙な方法を見出した。これは技術的に大きな進歩である。 3) 細胞表層タンパク質の中には、LDLRと類似のドメイン構造を取るものが多数(VLDLRやLRPなど)存在する。LDLRに見られる折り畳み機構の普遍性を調べるため、2021年度はLRP1のcDNAをクローン化しその新生鎖を精製するための系を作成した。 以上の他、LDLR新生鎖の折り畳みに必要なCa2+を小胞体内に取り込む輸送体の反応中間体の構造を明らかにして報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LDLRのN末端に存在するRドメインの折り畳みには下流に存在するβプロペラドメインが必要であることを見出していたが、当該ドメインは260アミノ酸からなる大きなドメインであるため、上流ドメインの折り畳みの促進に必要な配列の同定は極めて困難だった。今回、初めて、βプロペラの第3サブドメイン中の塩基性アミノ酸クラスターが上流ドメインの折り畳みに必要であることを突き止めることに成功した。更に、折り畳みで生じるひっぱり力によって、LDLRの翻訳速度が調節されているのかを検証する上で、翻訳後にシグナル配列依存的に小胞体へ輸送されるLDLRの存在が解析を困難にするが、後者の分子を除去する巧妙な方法を見出した。これらの実験に時間を要したものの、得られた結果は、今後の解析をすすめる上での大きなブレークスルーである
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Strategy for Future Research Activity |
1) LDLRβプロペラドメイン中の配列による上流のドメインの折り畳み促進機構の解明 2021年度の解析から、LDLRのN末端に存在するRドメインの折り畳みには、その遥か下流に存在するβ-プロペラドメインに存在する塩基性アミノ酸クラスターが重要であることを示唆する結果を得た。更に、当該領域が翻訳時に働くことが折り畳みを促進することを示唆する知見も得た。2022年度は、塩基性アミノ酸のクラスターのうち必須の残基の同定をすすめるとともに、LDLRの翻訳伸長とこの領域の働きの連関ついて様々な解析によって調べる。 2) 折り畳みで生じるひっぱり力による翻訳伸長速度の制御 翻訳停止が解除され得ることから、翻訳停止とその解除を繰り返すことによって、タンパク質がドメイン単位で効率よく折り畳まれる可能性が考えられる。2021年度の解析から、このような仕組みの存在を検証する目的で、翻訳後にシグナル配列依存的に小胞体へ輸送されるLDLRの存在が解析を困難にすることが判明したが、後者の分子を除去する巧妙な方法を見出した。今後は、その方法を早急に確立させた後、折り畳みを伴う場合とそうでない場合とで、新生鎖の翻訳合成速度に変化が見られるかを、様々な手法で検証する。 3) 細胞表層タンパク質の中には、LDLRと類似のドメイン構造をもち、ヒトの健康維持に重要なもの(LRP1やVLDLR)が存在する。2021年度には、LRP1のcDNAをクローン化し、その新生鎖を精製するための実験系を作成した。本年度は実際の折り畳みをジスルフィド結合モニタリング系で調べることにより、申請者がLDLRにおいて見つけた現象の普遍性を解析する。
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