2021 Fiscal Year Annual Research Report
染色体分配に最適化した分裂期染色体の物性の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Genome modality: understanding physical properties of the genome |
Project/Area Number |
21H05738
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 耕三 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 染色体 / 細胞 / 癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分裂期染色体の物性に着目し、その形状や可塑性がどのように染色体分配に最適化されているのかを明らかにすることを目的とする。分裂期の染色体は、凝縮して個別化される一方、染色体分配の過程で大きく形を変えるが、その基盤となる物性や、染色体分配への寄与については不明な点が多い。本研究では、特定の染色体の末端を可視化し、染色体の形状変化をリアルタイムで観察することにより、この点を明らかにする。2021年度には、以下のような成果が得られた。 1. 特定の染色体末端を可視化した細胞の作成 正常ヒト網膜色素上皮細胞株RPE-1と骨肉腫由来細胞株U2OSにおいて、特定の染色体の繰り返し配列に特異的なsgRNAにアプタマー配列を付加し、dCas9およびアプタマー配列に結合するGFPタンパク質を発現させることにより可視化することを試みた。その結果、1番染色体短腕を可視化したRPE-1細胞、2番染色体の両腕を可視化したU2OS細胞を樹立することに成功した。これらの細胞でさらにセントロメアも可視化した。 2. 分裂期における染色体の形状変化の解析 1番染色体を可視化したRPE-1細胞において、分裂後期における染色体分離のタイミングについての検討を開始した。また、2番染色体両腕を可視化したU2OS細胞については、紡錘体の双極性の維持に必要なEg5を阻害することによって形成される単極紡錘体上での染色体の反復運動(オシレーション)に着目した。その結果、染色体が紡錘体極に近づく時には染色体腕部の作る角度が減少し、紡錘体極から遠ざかる時にはその角度が増加することが明らかになった。このことから、セントロメアに結合した微小管の伸縮によって染色体に力が加わると、腕部はそれに追随して動く際に細胞質の抵抗を受けて変形することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には、当初の目標であった特定の染色体末端を可視化した細胞を、複数作成することに成功した。特に染色体の両腕が可視化された細胞の報告はこれまでなく、染色体の細胞内での物性を明らかにする上で強力なツールとなることが期待される。また作成した細胞をリアルタイムで観察して染色体の形状変化を評価する実験にも着手することができた。1番染色体を可視化した細胞では、染色体腕部を紡錘体中央に押す力(polar wind)が、染色体腕部の分離を抑制することを示唆する結果が得られており、さらに研究を進める予定である。2番染色体両腕を可視化した細胞では、単極紡錘体上での染色体オシレーションに着目することで、染色体にかかる力や染色体の構築を変化させた際の染色体の物性の変化を検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の成果をふまえ、2022年度は以下のように本研究を推進する。 1. 特定の染色体末端を可視化した細胞の作成 現在は染色体腕部とセントロメアが共にGFPで可視化されているが、セントロメアがKusabira-orangeで可視化された細胞を作成して、染色体腕部とセントロメアの判別を容易にする。また微小管をGFP-alpha-tubulinで可視化することにより、セントロメアと微小管の結合の状態を追跡可能にする。 2. 分裂期進行及び染色体オシレーションにおける染色体の形状変化の解析 1番染色体を可視化した細胞では、染色体腕部を紡錘体中央に押す力(polar wind)が、染色体腕部の分離を抑制する可能性について、姉妹染色分体間の接着を担うコヒーシンの発現抑制などにより検討を行う。2番染色体両腕を可視化した細胞では、i) Kif18AやMCAKなどのモーター分子の活性を変動させて染色体腕部にかかる力を変化させた場合や、ii) コヒーシン・コンデンシン・TopIIなどの発現や活性を抑制することにより、染色体の構築を変化させた場合の、単極紡錘体上でオシレーション運動を行う染色体の形状変化を観察する。 3. 分裂期染色体の形状変化と染色体分配との関連の解明 2.で検討したオシレーション運動とそれにともなう染色体の形状変化を再現する数理モデルを作成し、染色体の可塑性と染色体にかかる力の関係を検討する。
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Research Products
(29 results)