2021 Fiscal Year Annual Research Report
細胞外での分子の自己組織化による感覚器官の形づくり
Publicly Offered Research
Project Area | Material properties determine body shapes and their constructions |
Project/Area Number |
21H05791
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
板倉 由季 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (50773800)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | ECM / 外骨格 / 形態形成 / 自己組織化 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の体表を覆う細胞外基質(ECM)は、生体を守り、かつ感覚受容・身体運動などを可能にするため、多様な構造をとる。しかし、細胞外に分泌されたECM構成分子が構造化される仕組みは不明である。 本研究は、ショウジョウバエ嗅覚毛を覆うECMまたはクチクラ構造の初期の構造―厚さ20 nmの波状の “ナノ薄膜”の形成に着目する。ナノ薄膜のパターンが最終的な体表構造を決定するため、重要な過程である。関与が示された2種類のECM構成分子Tyn, Dylについて、生体内での微細局在や、人為的な発現量操作が体表構造に及ぼす影響、分子の相分離・自己集合などの性質を調べることで、ナノ薄膜の形成機構を明らかにする。 2021年度は(I)Tyn, Dylの微細局在を明らかにする、(II) Tyn, Dylの人為的な発現量操作の影響を調べる、(III) Tyn-Dyl間の相分離が起こるか調べる、(IV) (I)-(III)の結果を踏まえてナノ薄膜形成の数理モデル構築に着手する、という計画をたてた。 (I)では実験手法を何度か改善し、適した方法を確定できた。(II)ではTynまたはDyl遺伝子の抑制と過剰発現を行い、Tynはナノ薄膜の曲率を生み出す・Dylはナノ薄膜の形成を誘導することが明らかになった。培養細胞においてTyn, Dylを人為的に発現すると相分離が見られたため、相分離現象がナノ薄膜形成に重要であると考え(III)の計画を立てたが、生体内ではTynがDylより先に分泌されることがわかった。分泌の順番が異なることで二層となる可能性が高いため、(III)の優先度は下がったとし他の項目に注力した。(IV)については、領域会議において理論研究者と議論し、複数の数理モデルの提案をうけた。これから出る(I)の結果を踏まえ、どの数理モデルが適するか検討し、共同研究を開始するための、準備段階を終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗について、 (I)-(IV)の項目に分けて述べる。 (I)Tyn, Dyl の微細局在を明らかにする目的で、免疫電子顕微鏡法について何度か実験手法の改善を行い、最適な方法を決定した。免疫電子顕微鏡法は微細形態の保存と抗原検出の両立が難しく、うまくいかない場合も多い。本研究ではTyn, Dyl共に検出ができており、非常に順調に進んだと言える。 (II) Tyn, Dyl の人為的な発現量操作の影響を調べた結果、Tynの減少によりナノ薄膜の曲率が減少し、Dylの減少・増加はナノ薄膜の欠損・多層化をそれぞれ引き起こすことが示唆された。当初行なっていた透過型電子顕微鏡観察では例数を増やすのが困難であったため、代わりに電界放出形走査電子顕微鏡を使うなどして効率化を行い、現在定量化に取り組むまでに至った。こちらも順調に進んでいる。 (III) Tyn-Dyl 間に相分離が起こることは、培養細胞におけるTyn, Dylの過剰発現により示されたため、この性質について調べる予定であった。しかし、生体内ではTynがDylよりも先に分泌されることがわかった。分泌の時期が異なれば、Tyn, Dylが分離した状態で重合するのに相分離現象は必要でない。このため、この点は保留として他に注力した。 (IV) (I)-(III)の結果を踏まえてナノ薄膜形成の数理モデル構築に着手した。これまでに領域会議を通じて理論研究者と議論し複数のモデルを提案してもらった。(I)の結果が出れば、各モデルの妥当性を検討した上で、理論研究者との共同研究を開始する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の項で述べた通り、(I)Tyn, Dylの微細形態上の局在について、既に検討し最適化した免疫電子顕微鏡法によって、明らかにする。定量化を行い、Tyn, Dylがナノ薄膜や細胞膜に対してどのような位置関係にあるのかをナノスケールで示す。次に、(II) Tyn, Dylの人為的な発現量操作の影響を電界放出形走査電子顕微鏡により観察し、定量化する。既に着手している。(IV) (I), (II)の結果を踏まえ、理論研究者との共同研究を開始する。ナノ薄膜形成の数理モデル構築を行うことで、現在の実験的な研究だけでは難しい、現象のより詳細な理解が可能になると考えている。この数理モデルにより新たに示唆される点について実験的に調べることで、数理モデルの検証を行う。得られた内容は論文としてまとめ、発表する。 Tyn, Dylはナノ薄膜形成において非常に重要な役割を果たすが、本研究を通して、他の分子による興味深い関与も示されてきた。特に興味深いこととして、研究の開始時にはTyn, Dylがナノ薄膜の構成分子である可能性が高かったが、2021年度の研究結果により、構成分子は他にあるという結論に至った。Dylを抑制しても、ナノ薄膜は減少するものの、特にDylの局在が見られない部位において、構造が観察されたためである。ナノ薄膜形成機構を明らかにする上で、周囲で機能するTyn, Dylに加え、構成分子の同定は重要である。このナノ薄膜構成分子の同定についても既に計画しており、今後進めていく。
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