2021 Fiscal Year Annual Research Report
内受容感覚依存的な情動を伴う質感の神経メカニズムの解明
Publicly Offered Research
Project Area | Analysis and synthesis of deep SHITSUKAN information in the real world |
Project/Area Number |
21H05834
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
安田 正治 関西医科大学, 医学部, 講師 (90744110)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | サル / 外側腕傍核 / 情動 / 認知 / 内受容感覚 / 迷走神経 / 自律神経 / 眼球運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
外界の知覚により引き起こされる快・不快の情動は、中枢神経の各脳領域の変化に加え胸・腹部臓器の変化を引き起こし、その結果内臓感覚いわゆる内受容感覚の変化が生じる。本研究は、内受容感覚により引き起こされる中枢神経系における変化、それによる質感・認知行動の変容を、マカクサルを用いて明らかにする。 迷走神経求心性線維は内臓感覚の中枢への主要な伝達経路であるが、脳幹に位置する外側腕傍核は、延髄孤束核を介して迷走神経からの入力を受ける。そこで脳幹部を単一細胞外記録によって広範囲に探索し、内臓感覚信号の受容領域であると考えられる外側腕傍核の位置を電気生理学的に同定した。外側腕傍核細胞の情動表現を解析するためパブロフ条件付けにおける神経活動応答を解析した結果、情動条件選択的な神経活動が得られた。またこうした定常状態の情動に加え、認知行動中の情動表現を解析するため、サルに種々の情動下で認知行動課題を行わせた。認知行動課題では、サルは二つの選択肢から報酬と関連付けられた一方の選択肢を選ぶ選択課題を行った。また、各選択行動後に、パブロフ条件付けで学習した正または負の情動と関連付けられた条件刺激を提示することにより、課題遂行中のサルの情動を持続的に制御した。課題遂行中の外側腕傍核の神経応答を解析した結果、情動条件選択的な応答を示し、またサルの選択行動を予測的に表現する神経細胞を見出した。これらの結果は情動を伴う質感に内受容感覚の情報処理が関与する可能性、そしてその信号伝達と、情動・意思決定との関与を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は脳幹のマッピング記録を単一細胞外記録によって行い、脳幹領域における情動、認知表現を広範に探索した。現在のところ記録対象領域として計画に挙げた外側腕傍核の位置同定をおおむね完了した。一方、背側縫線核においてセロトニン細胞を同定するため、セロトニン細胞選択的に光駆動性のチャネルを発現するベクターを脳内に注入する予定であったが、これについては計画していた新たな個体への注入には至っていない。既に注入を行った個体での発現状況をみるための組織化学的解析に時間を要していることが原因である。組織化学的解析の結果、発現が充分でなかったことが明らかになった場合、より発現効率の高いベクターを新たに開発する可能性も考えている。 脳幹において情動、認知表現を行う神経細胞が内受容感覚の信号伝達に関与しているのかを明らかにするため、頸部迷走神経の順行性刺激を計画している。そのための処置として、迷走神経刺激用電極の頸部迷走神経への設置を初年度に計画していたが、完了していない。理由として解剖学的な位置確認や施術練習の機会が多く得られなかったこと、手術に使用予定であった器具の流通が、年間を通して滞っていたことも理由として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は脳幹の広範囲なマッピングを行い、外側腕傍核の位置同定を行った。背側縫線核と密接な結合関係にある青斑核は外側腕傍核に近接した位置にあり、この同定、課題関連活動の記録も行っていく。情動、認知表現を持つ神経細胞が、実際に内臓感覚の信号伝達に関与するのかを明らかにするため、迷走神経の順行性刺激によって活性化する神経細胞の同定を行う計画である。既に4頭のサルを用いた試験解剖によって頸部迷走神経の位置の確認を行っており、施術的な準備は整ったと考えられる。手術で使用予定であった一部の器具が未入手の状態であるが、別途特注品の開発に着手するか、もしくは入手を待たず手術する可能性を検討したい。刺激電極の埋め込み後は、上記の神経細胞の同定に加え、迷走神経刺激による、サルの情動反応や認知行動への影響を今後解析する予定である。 セロトニン細胞選択的に光駆動性のチャネルを発現するベクターに関しては、現在、既に注入を終えた個体の組織化学的解析により、その発現状態を精査している。仮に発現状態が充分ではないことが明らかになった場合、より発現効率の高いベクター開発を再度行う必要がある。
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