2021 Fiscal Year Annual Research Report
再帰性と可塑性を有する分子学習モジュールのシステム設計理論
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Cybernetics -Development of Minimal Artificial Brain by the Power of Chemistry |
Project/Area Number |
21H05889
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
堀 豊 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10778591)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | 分子ロボティクス / 分子知能システム / 制御工学 / 数理最適化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,単一の分子学習モジュール反応系に着目したローカルな視点と,分子学習モジュール間の情報伝達に着目したネットワーク的な視点で分子システムの定式化と解析を行い,学習能を持つ分子システムの解析・設計につながる基礎的な知見を得た. 前者に関しては,まず,生物の感覚神経システム等で観察され,再帰性を有する(同様の刺激に対して同じ応答を繰り返す)ことが知られている反応パスウェイ構造に着想を得て,その構造を模したDNA鎖置換反応系を設計した.その後,その反応系のダイナミクスを数値シミュレーションするための数理モデルを構築し,いくつかのパラメタ条件を固定した上でシミュレーションを実施し,設計したDNA反応系における再帰性の発現パラメタ条件を部分的に明らかにした.さらに,シミュレーション結果に基づいて,より一般的な解析的条件を予想し,その理論的裏付けに関する検討を行った.また,これらと並行して,理論の実証実験に向けたDNA反応系の応答計測実験を実施し,基礎データの取得を行った. 後者については,膜によってコンパートメント化された分子学習モジュールの間で生じる反応拡散による情報伝達を「分子通信路」と捉え,反応拡散を作用機序とする情報通信路における周波数伝達特性を解析するための数学的な定式化(システム制御論的なアプローチによるモデル化)をほぼ完了することができた.これにより,分子学習モジュールの距離や分子の拡散によってどの程度の情報伝達が可能であるか,という問いに対して系統的な解析が可能になることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査に基づいて分子学習モジュール反応系を当初の計画通りに具体的に設計することができた.設計した反応系における再帰性の発現パラメタ条件については一定の進捗があったものの,当初の計画に比べて限定的な結果となった. 一方,分子学習モジュールのネットワーク解析については,システム論的な取り扱いをするための定式化や解析のめどが立ち順調に進捗している.
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Strategy for Future Research Activity |
分子学習モジュール反応系の設計については,再帰性を発現するための一般的なパラメタ条件の予想が立ったため,今後はそれを手がかりとして,厳密な導出を行い検証を行う.また,提案する反応構造を有するDNA反応溶液を作成し,パラメタ掃引実験を実施して理論の検証を行う. 分子学習モジュール反応系をネットワーク化したシステムについては,主に理論的なアプローチで研究を発展させる.特に,今年度に得られた数理モデルに基づいて,分子通信の周波数特性解析や情報量的な観点での解析につなげる予定である.
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