2021 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ流体デバイスと自己組織化による人工多細胞体モデルの構築
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Cybernetics -Development of Minimal Artificial Brain by the Power of Chemistry |
Project/Area Number |
21H05890
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
津金 麻実子 中央大学, 理工学部, 共同研究員 (00469991)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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Keywords | リポソーム / マイクロ流体デバイス / 自己組織化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、人工細胞(リポソーム)の生成や配置を精密に制御可能なマイクロ流体工学および自然界における多細胞体形成を模擬した自己組織化原理の二つを利用し、分子通信機能を有する人工多細胞体を形成するためのプラットフォーム技術の構築を目的としている。 本年度はマイクロ流体デバイスを用いた均一サイズのリポソームの作製と分子透過性を有するリポソームの構築を行った。 マイクロ流路は、まずフォトリソグラフィーによってシリコンウエハ上にレジストをパターニングして鋳型を作製し、その鋳型の構造をポリジメチルシロキサン(PDMS)に転写して作製した。 リポソームの作製は、流路内で油中水滴(water-in-oil:W/O液滴)をW-O界面に通過させる方法を用いた。まず、フローフォーカシング法によってオイル中に均一サイズのリポソームの内液となるW/O液滴を作製した。マイクロ流路の中間部から外液を導入すると、脂質が配列したW-O層流界面が形成される。流路下流でマイクロ流路幅が小さくし、W-O層流のオイル層の幅も小さくするとW/O液滴がW-O界面に押し付けられ、W/O液滴がW-O層流界面を通過しW/O/W液滴が形成された。W/O/W液滴はdewetting現象によってオイル層が一カ所に凝集すると、脂質二重膜からなるリポソームが形成された。 このリポソーム作製における溶液や脂質の組成などの条件を検討後、分子透過性を有するリポソームの構築を試みた。リポソームの外液に、脂質二重膜上にナノポアを形成するα-hemolysinを添加すると、リポソーム内に封入した蛍光分子の流出に伴う内部の蛍光強度の低下が確認され、分子の透過が確認された。その他、リポソーム内外の溶液を糖によって浸透圧差を設け、脂質膜の半透膜性による水分子の透過の確認、無細胞タンパク合成系を用いたリポソーム内でのタンパク質合成の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来のマイクロ流路を用いたリポソーム作製法は、ハイスループットでサイズの均一性が高い一方で、キャピラリーを用いたデバイスでは手作業による厳密な位置合わせが必要、PDMSマイクロ流路を用いた方法では流路内の部分的な親水化が必要、さらにこれらの方法では複数の流体の精密な流量調整が必要であるなど煩雑かつ困難な作業により再現性が低い。マイクロ流路を用いた均一サイズのリポソーム作製法として、W/O液滴をW-O界面に通過させる方法が報告されているが、液滴界面通過成功率が5%である。本研究では、液滴界面通過を用いた均一サイズのリポソームの製造法において、W-O界面を形成する溶液組成を検討することで液滴界面通過が約100%の成功率を達成し、製造方法、表面処理、流量調整の面で改良を加えたデバイスの確立に成功した。このデバイスは領域内の共同研究者に提供し、インテグレーション拠点で活用予定であり、領域の研究の発展にも寄与できると考えられる。さらにこのリポソームを用いたナノポア形成による分子透過性も確認でき、今後の分子通信機能を有する人工多細胞体形成の足掛かりになったことから、研究はおおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、人工細胞(リポソーム)をマイクロ流路内の制御された環境下で多細胞体化することを実現し、さらにこの人工多細胞体を用いてDNA分子演算による信号検知・処理・出力システムの実装を目指す。 人工多細胞体の形成はマイクロ流体トラップおよび自己組織化を利用した2種類の方法を検討する。1つ目はマイクロ流体トラップを用いた方法で、任意の間隔で配置した構造を用いて、分子透過性を有するリポソームを空間内の所定の位置に配置することで行う。トラップの位置や距離を変えることで、ネットワークの結合性や結合強度を変化させることができると考えられる。2つ目は、自己組織化を用いた方法で、ポリカチオンとポリアニオンの複合体コアセルベートを足場としたリポソームの配列・組織化を行う。この界面は高い界面エネルギーを有するため、適切な条件下でリポソームが界面に吸着することを確認している。この現象を用いて、マイクロ流体デバイス内の任意の位置に形成したコアセルベートにリポソームを吸着させ、リポソームの集合体を作製する。いずれの系においても、マイクロ流体デバイスを用いることで、分子通信に重要な空間パラメータを制御する。 さらに、この人工多細胞体を用いて、外界から来たシグナル分子が透過膜を通じて人工多細胞体内に入り、酵素や鎖置換反応などのDNA分子演算を経て出力が得られるような系の構築を試みる。
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Research Products
(11 results)