2010 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン・水素結合と生体分子の理論化学
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science for Supra Functional Systems ? Development of Advanced Methods for Exploring Elementary Process |
Project/Area Number |
22018016
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 啓文 京都大学, 工学研究科, 教授 (70290905)
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Keywords | プロトン / 水素結合ネットワーク / 分子性統計力学 / pH / PYP |
Research Abstract |
本研究課題は、生体分子に代表される高次系と水との間に存在する普遍的な性質を明らかにする目的で研究を進めており、本年度は主にpHなどの生体関連分子の周辺環境の変化が、分子の光物性に与える影響を理解するための理論計算を行った。具体的には光受容蛋白質イエロープロテイン(PYP)を取り上げ、その発色団であるp-クマル酸について、水素結合ネットワークに着目しながら理論的に調べた。同分子の吸収スペクトル位置はpHによって大きく変化することが知られているが、高精度量子化学計算を用いた結果から、バルクとしてのイオン強度変化よりもプロトン脱着状態の変化が大きな影響を与えていることが明らかとなった。また、吸収スペクトルはフロンティア軌道間の電子遷移でおおよそ説明できることも分かった。さらに実際の蛋白質内部においてはオプシンシフトに加えて、低障壁水素結合の存在も考慮した上で、光吸収の機構に対する包括的な理解が得られつつある。現在学術論文として発表するための取りまとめを行うとともに、Huckel近似を出発点としてスペクトルシフトの機構の本質を簡便に記述する理論モデルの構築を進めている。 また、領域内で研究が広く行われている固液界面については、分子動力学法等、比較的限定された計算研究しかない。そこで、界面に対して垂直および水平の二つの方向性成分に着目し、これらに沿った溶媒和構造が記述できる新しい積分方程式理論の開発に成功した。とりわけpolymer-RISM理論との組み合わせによって周期境界系を効率よく取り扱うことが可能となり、今後、界面近傍の溶媒和・水和構造や、そのダイナミックスも視野に入れた応用計算の展開を企図している。また、グラフェンの部分構造に相当するコロネン周辺の溶媒構造についての計算も行い、錯体形成に伴う構造・エネルギー変化を明らかにした。
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