2011 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン-電子連動型錯体による分子デバイスの創成
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Programming - Science of Molecular Superstructures for Chemical Devices |
Project/Area Number |
22108531
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
田所 誠 東京理科大学, 理学部, 教授 (60249951)
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Keywords | 水素結合 / 混合原子価 / レニウム錯体 / プロトン移動 / 電子移動 / PCET / 誘電率 / 分子デバイス |
Research Abstract |
電子を媒体とするエレクトロニクスは、物理や化学の学問分野を基礎として、コンピューターや情報伝達機器など、私たちの文明にとって必要不可欠なあらゆる機器の動作原理を担っている。しかし、現在ナノサイエンス・ナノテクノロジーの発展により、コンピューターや電子機器内部の素子がナノレベルを超えて微小化され、分子・原子レベルで、もはや電子の量子トンネル効果を無視できなくなってきた。また、混合原子価状態をもつ水素結合型PCET錯体は、外圏的な金属イオン間の電子移動と水素結合したプロトンの移動がカップルした、新しいタイプの機能性材料を作ることができる。混合原子価状態をもつ金属錯体として、可逆な多段階の酸化還元電位をもつRe錯体(ReII〓ReIII〓ReIV)を採用し、そのReIIIとReIV価の混合原子価錯体をHbim-配位子で水素結合させたダイマー錯体を設計し、[ReIIIC12(PPr3)2(Hbim)][ReIVC12(PPr3)2(bim)](3)を合成した。この錯体は1つのNH…N型のイミダゾール型の水素結合でRe(III)Re(IV)の混合原子価錯体が連結しており、結晶中で外圏的な混合原子価の電子移動と水素結合のプロトン移動が連動した初めての錯体となる。X線結晶構造解析により、水素結合型のプロトンが1つにブロード化しており、低温にするとダブルポテンシャルが現れる。また、結晶中ではRe(III)とRe(IV)錯体の区別は付けられず、電子移動とプロトン移動で揺らいでいるものと考えられた。30Teまでの高磁場では典型的なS=1/2のは強磁性を示しており、低温でのESR測定では17K~20Kで6本から12本への分裂が観測された。一方、誘電率の測定では4Kでも誘電率ε=2000~5000を示し、極低温でも常誘電相(強誘電相)をとっているものと考えられ、量子的な効果によりプロトンが低温まで揺動している可能性を示すことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請の時に比較して、プロトン移動と電子移動が連動している結果をX線構造解析の温度変化、および誘導体の合成で確認することができた。また、共同研究によって混合原子価間の磁気的な相互作用やESRなどによる電子的なカップルについての特性を得ることに成功した。しかし、誘電率のデータがまちまちであり、サンプル依存性を示すことが考えら得る。さらに、中性子線による研究がメインとなるはずであったが、震災によって中性子の測定を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を遂行する上での問題点は、やはり中性子線による構造解析データの測定ができなかったことにより問題点が大きい。中性子による測定で、プロトン移動については証明することができる、。また、4Kの極低温での中性子線結晶構造解析を行うことができるため、17K~20Kの転移挙動がどのようなものなのか決着を付けることができるであろう。さらに、デバイスを利用した1分子での誘電物性測定を行うことができれば、分子デバイスとしての可能性が広がったはずである。
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