Research Abstract |
高分子材料の物性向上や機能性付与により,新たな複合材料としての高分子利用を考えることは色々な状況下でのマテリアルニーズに答える材料応用を考える上で重要である.このような中,高分子材料の物性向上や機能性付与を目指した,硬質系材料と高分子材料を複合したコンポジットの研究が注目を浴びている.ここではプラズマ処理やプラズマCVD法を応用することで,より簡易な工程で高分子材料の複合材料化を目指した.具体的には,プラズマを使った表面改質や表面蒸着によるポリマーのバリア性や力学物性の制御,さらには新たに考案した表面蒸着ナノ粒子同時分散法によるコンポジットの作製と実用化に向けた力学物性評価を実施した.前者のプラズマ表面効果によるポリマーの改質の研究では昨年度に続いて薬剤含有ポリマーをプラズマ処理することで表面バリア特性を変化させ,薬剤溶出量を制御することを試みた.具体的には,既に薬剤溶出ステント(DES)に応用されている,2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC),エチレンビニルアセテート(EVA),ポリウレタン(PU)の3種のポリマーを薬剤担体として使用し,アルゴンガスを用いたプラズマ処理を5秒から45秒まで異なる処理時間で実施した.その結果,EVAおよびPUからの薬剤溶出量は処理時間を長くするにともなって溶出量が減少する傾向が得られた.MPCはプラズマ処理の有無にかかわらず,一定の薬剤溶出量であった.これらの違いは,表面組成の分析から,プラズマ処理による表面の組成変化が関わっていると考えられる.プラズマ表面蒸着によるコンポジット作製の課題においては,できたコンポジット材料の力学物性および熱物性を評価することを目的とした.具体的には,高分子材料としてポリエチレン(PE)を使用し,分散材として非晶質炭素(AC)を選びコンポジット化し,力学物性および熱物性を評価した.透過型電子顕微鏡像から,粒径が約100nmのACがPE中に分散していることが確認され,引張試験を実施した結果,ACを分散させたPEは,破断応力が最大でPEの約1.3倍,弾性率が約1.6倍となることが示された.熱物性も向上しており,ACが結晶核材として機能し,物性向上に寄与したと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラズマ処理を用い,各種医用ポリマー材料のバリア性について,特に薬剤徐放に向けたポリマー材料の作製を行い,制御可能なプラズマ処理法について評価できた.またプラズマCVD法も新たに応用し,汎用プラスチックの代表であるポリエチレンを母材とした非晶質炭素/ポリエチレンコンポジットの作製にも成功した.これにより分散材の分散性も良好で,さらに力学物性および熱物性ともに向上したポリマー複合材料を作製することに成功し,おおむね順調に進展している,といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果においては,特に非晶質炭素/ポリエチレンコンポジットの安定な作製条件を詰めることが出来た.今後は,詳細に力学物性および熱物性の2つの物性を評価する必要があり,その信頼性を上げることが応用に向けた第一歩となる.また,非晶質炭素由来の電気伝導性やガスバリア性の評価を行い,本研究で作製したコンポジットにどのように機能性付与されるかを定量的に評価することも重要である.さらに,今回は母材をポリエチレンに限定してコンポジットの物性評価を実施したが,今後は母材を他種ポリマーにも広げ,他種ポリマーへの応用可能性を検討したい.以上のように,機能性および多種ポリマーへの応用可能性を検討することで,従来の手法に比べ,より応用範囲の広いコンポジット作製手法の確立を目指す必要があると考えている.
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