2010 Fiscal Year Annual Research Report
インフレーションモデルにおける赤外・紫外発散の問題
Publicly Offered Research
Project Area | The Physical Origin of the Universe viewed through the Cosmic Background Radiation - from Cosmological Inflation to Dark Ages - |
Project/Area Number |
22111507
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 貴浩 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (40281117)
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Keywords | インフレーション / 赤外発散 / 密度揺らぎ / 宇宙背景放射 / 重力波 / ゲージ不変性 |
Research Abstract |
宇宙初期に起こったインフレーションの時期におけるゆらぎの生成過程において生じる赤外発散の問題について研究を進めた。前年度までの研究から、我々はインフレーションを起こすスカラー場であるインフラトン場が一つだけの成分からなる場合に、観測可能領域だけに考える領域を限定すると通常の宇宙論的摂動論で用いられるゲージ固定条件が完全なゲージ固定になっていないことが赤外発散の原因であるという説を唱えていた。しかし、完全なゲージ固定をおこなってきちんとした量子化をおこなうことは難しい。特に、観測可能領域に限った議論をおこなうと空間並進対称性を壊してしまう。そこで、完全なゲージ固定をおこなわない場合であっても、問題となる残余のゲージ自由度に影響されないような真にゲージ不変な観測量を計算することで赤外発散は除かれるであろうという着想に立ち、そのような計算を遂行した。その結果、赤外発散が1-ループの補正に現れないための条件として、初期の量子状態の選び方に対する無限個の条件が得られた。さらに、必ずしも必要条件であることを示したわけではないが、この無限個の条件を満たすための十分条件としてゆらぎのモード関数に対する条件式が得られ、その条件式を解くとスローロール極限ではスケール不変なスペクトルを予言するモード関数になることを示した。これ以外の初期状態の選び方が許されないという主張ではないが、適当に選んだ初期条件ではこの赤外発散がないために必要な条件を満たすことはできない。このことは、空間並進対称性と矛盾のない初期条件が非常に強く制限されていることを意味しており、解釈に誤りがなければ、多くの人為的な初期条件の変更の提案を棄却する結果と言える。さらに、この考え方を発展させ、整合性条件として知られる2点相関関数のスペクトルと3点相関の一つの運動量が小さい極限の間に成り立つ関係式が、実際のゲージ不変な観測量を見る限り陽には現れないであろうという計算結果を示した。
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