2022 Fiscal Year Annual Research Report
アンデス文明における土器製作の創発プロセス:境界領域の事例をもとに
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative Human Historical Science of "Out of Eurasia": Exploring the Mechanisms of the Development of Civilization |
Project/Area Number |
22H04444
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金崎 由布子 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (10908297)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アンデス考古学 / 土器編年 / アマゾン考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アンデス文明形成期における土器出現から二千年間の土器製作システムの創発プロセスを明らかにするものである。アンデス文明の初期の土器には、土器製作が先行するアマゾン地域の影響が見られ、アンデス・アマゾン間の境界領域はアンデス文明の土器製作技術の発達に重要な役割を果たしたと考えられる。本研究では、境界領域の流動的な社会状況のもとで、土器製作者のスキル、アイデンティティ、社会的立場がどのように歴史的に形成されていったのかに焦点を当て、ワヤガ・ウカヤリ川流域の事例をもとに、文明形成期の土器製作システムの創発プロセスを明らかにする。 2022年度は、2000年代以降日本人・ペルー人研究者らにより行われたワヌコ盆地の先行調査で得られた土器の分析、および2022年に筆者自身の調査チームによって行われた発掘調査で得られた土器の分析を主として行った。研究協力者である現地考古学者・技師計名3および考古学を学ぶ学生4名(ペルー人3名日本人1名)とともに、実測・拓本・写真撮影・3D計測などの方法によって精密に出土土器を記録した。それらの記録をもとに、研究の基盤となる精緻な型式編年を構築した。特に、2022年に実施したワヤガ川支流モンソン川流域での発掘調査で得られた土器の分析が加わることで、従来集中的に研究が行われてきたワヌコ市近郊だけでなく、ワヌコ州の熱帯雲霧林帯の面的な編年構築を行うことが可能となった。また、肉眼による土器胎土の予備的観察を行うことによって、広域に分布する土器スタイルにおいて、出土地域により土器胎土が異なっている可能性が高いことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える。2022年度は、当初予定していた資料の分析に加え、並行して行っているフィールド調査で新たに得られた資料を分析の対象とした。この調査は、ワヤガ川支流のモンソン川流域で行われたものである。従来ワヤガ川流域では、ワヌコ市近郊で集中的な研究が行われてきた。この地域では、アンデス・アマゾンの土器製作伝統の融合したような土器が出土していたため、両者の関係を理解する上で重要な地域であるが、一方で狭い範囲に調査が集中していたため、面的な交流関係を理解するには至っていなかった。筆者らは、ワヌコ市近郊から標高が1000mほど低いモンソン川流域の熱帯雲霧林帯で、これまでワヌコ市で見つかっていた土器伝統と、アマゾン低地で発見されている土器伝統の双方と関係の深い新たな土器文化を発見した。本研究では、この出土土器を分析し、それらをワヌコ市近郊の土器および熱帯低地の土器と詳細に比較した。その結果、アンデス文明形成期には、ワヤガ川流域の山間地域とウカヤリ川流域の低地との間で密接な交流があったことが明らかになった。 このように2022年度の成果は、アンデス・アマゾン間の境界領域において土器製作が発展していったプロセスの理解を大きく促進するものであった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、主に型式学的分析からアンデス・アマゾン間の境界領域における土器製作の創発プロセスにアプローチした。そこで2023年度はまず、2000年代以降日本人・ペルー人研究者らにより行われたワヌコ盆地の先行調査で得られた炭素サンプル、および2022年に筆者自身の調査チームによって行われた発掘調査で得られた炭素サンプルをペルー政府の許可を得て日本に輸出し、東京大学年代測定室において14C年代測定を実施する。これをベイズ編年モデリングの手法を用いて、先に実施した型式学的分析と組み合わせることで、詳細な地域編年を構築する。これにより、緻密な目盛りを持つ時間軸のもとで、アンデス・アマゾン間の境界領域における土器製作の様々な変化を理解することが可能となる。 また、2023年度夏季に現地に渡航し、現地に保管されている土器資料について、胎土分析を含むより多角的かつ詳細な観察・分析を実施する。特に離れた地域で共通して出土している土器スタイル間での様々な属性の異同について詳細に観察する。それにより、これらの地域間で土器製作者が実際にどのように交流を行っていたのか、またそれぞれの地域でどのようにしてこのような広域スタイルの土器を形成する土器製作コミュニティが生成したのかについて、具体的・実証的に明らかにする。
|