2022 Fiscal Year Annual Research Report
笛吹ボトルの構造研究と音響解析から探る古代アンデスの水に関わる世界観
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative Human Historical Science of "Out of Eurasia": Exploring the Mechanisms of the Development of Civilization |
Project/Area Number |
22H04453
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
吉田 晃章 東海大学, 文学部, 准教授 (60580842)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代アンデス / 認知考古学 / 聴覚 / 土器 / 笛吹きボトル |
Outline of Annual Research Achievements |
古代アンデスにおいて笛吹きボトルは、少なくとも2000年以上にわたって制作され、土器を使用して音を奏でる伝統が保持され続けた。この音に対する趣向の変化を聴覚と土器成形から研究することが、大きな目的である。研究対象の東海大学アンデスコレクションから笛吹きボトルを50点検出できた。調査開始前に想定していた上限に達する数であった。古くは古典クピスニケ文化(前1200-前800年)にまで遡り、パラカス、ビクス、モチェ、レクアイ、ナスカ、ワリ、チャンカイ、チムーなど時代や地域の異なる複数の文化に及んでおり、貴重な資料群であることが判明した。笛吹きボトルの検出とともに東海大学マイクロ・ナノ研究開発センターのX線CT装置を使用し、撮影を進め、50点すべて撮り終えた。非破壊検査による笛吹きボトルの内部構造の精緻なデータを総合的に収集できた(例えば、笛玉内径の計測)。笛玉のデータから文化ごとに笛玉の平均サイズが異なり、音の高低に一定の趣向があることがほぼ確認できた。さらにX線CT動画の作成も行った。CT画像は東海大学アンデス・コレクションホームページで、すでに一部を公開した。さらに3Dプリンタ用に50点すべての笛吹きボトルのSTLデータを作成した。また形態が特徴的な10点の笛吹きボトルを選定し、3Dプリンタとインダストリアルクレイと陶土を使用し制作実験を行い、笛吹きボトルの成形と構造の解明に取り組み一定の成果を得ることができた。さらにボトル内部の構造と鳴らし方を考慮し笛吹きボトルのタイプ分類基準を設定し、試験的に五つのタイプに分類した。3Dレプリカなどを使用し、ボトルの鳴らし方についても研究を進め、暫定的に五つの奏法(吹奏法、 浸水法、傾斜法、振揺法、閉塞法)を想定した。これらの奏法と構造に基づき、制作者の意図に着目し、試験的分類を行い、古代アメリカ学会などで複数回学術集会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)より多くの資料を基にタイプ分類できるように計画を拡張し、国内のコレクションを対象に笛吹きボトルの調査を開始した。2023年3月に開催したアンデスコレクション研究懇談会で国内5機関に報告をいただき、遺物の確認作業を行った。次年度に向け、国内所蔵機関との連携から新たな研究のフィジビリティが調査できた。 2)複雑な内部構造や従来確認できていなかった構造的特徴をX線CTによる撮影で確認することができ、構造的把握は予定通りに進んでいる。成形に関する研究では、計測値や形成痕を参照に、陶土と3Dプリンタによるレプリカを真世土マウ氏(岡山県立大学)に各10点制作してもらい、各ボトルタイプの成形過程と製作上の特徴を詳らかにした。 3)音響解析ではレプリカを鳴らし解析を試みたが、形状の異なるレプリカでは比較検討が困難であるという問題が生じた。このため規格モデルを作成し、各部位による違いが比較できるよう工夫した。現在、双胴ボトルで実験を開始し、笛玉の大きさを一定にし胴部連結部分の長短、笛玉に付随する送風管の有無によって音色に差が生じるか等、スペクトラム解析を行い各文化の音に対する趣向に迫りつつある。 4)ワークショップで制作実験を行い、音とカタチにどのような意識をもって造形を行うか観察した。このアウトリーチ活動は鑑賞用(触察用)教材が不足する盲学校と養護学校で実施された。文字を持たず聴覚を重視した古代アンデスの人々と音に敏感な現代の視覚障がい者は、いずれも音に対する豊かな感受性を持っており、音の高低や音階から景色や時間、動植物を想起することも確認できた。無文字社会だからこそ、視覚、触覚に加え聴覚の重要性が土器制作において重視され続けたことが垣間見られた。さらに内部構造に関する研究成果とワークショップ作品の展示を目的に、東海大学松前記念館において2022年11月から翌5月まで企画展を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)笛吹きボトルを通じ国内機関とさらに連携を図り、笛吹きボトル研究を契機に学術交流を進展させたいと考えている。それに伴い、笛吹きボトルのさらなる確認とタイプ分類用資料の追加を行っていきたい。 2)構造的また論理的に笛吹きボトルが鳴る仕組みはほぼ解明できたが、今年度は実際にその仕組みを裏付ける映像資料を撮影したい。これには透明素材の3Dレプリカを用いて、内部の水と空気の動き、笛玉への空気の流入の様子を動画撮影して確認する予定である。すでに樹脂タイプの3Dプリンタも購入し、3Dプリンタ用のSTLデータも作成済みで準備が整っている。気体と液体の動きと笛玉の鳴る仕組みの関係の検証を進めていく。 3)また主要な構造をもつ笛吹きボトルのレプリカ作成を継続し、実際に水を入れた状態で笛の音色の音響解析を実施する。これは同じボトルを使用し、異なる奏法による音の差異を研究する際に使用するものとなる。なぜなら実物のレプリカでは、パラメータが多く各ボトルの音色を比較することは極めて困難であるからだ。一方タイプの異なる笛吹きボトルの音色の比較には、素材としてペットボトルなどの規格品を用い、異なるパラメータを一つに絞り込んで比較実験を継続して行う。今年度は特に音響解析に研究の主軸を移し、古代アンデスの聴覚に関する趣向の変化を把握したい。まずは文化ごとの、あるいはボトルのタイプごとの音の特徴をそれぞれ把握することを直近の目標としたい。 4)さらに継続してアウトリーチ活動を実施する。6月からは岡山盲学校で笛吹きボトルのワークショップを予定し、作品展示を岡山の倉敷考古館で実施するとともに、笛吹きボトルの研究成果をコンパクトにまとめた企画展示を計画している。今年度が二か年目で最終年度であるため、早期に研究を推進し、報告書を取りまとめたい。
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Remarks |
笛吹きボトルの研究の成果の一部(笛吹きボトル写真、動画、X線CT画像、動画)が公開されている。
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Research Products
(13 results)