2022 Fiscal Year Annual Research Report
ラマン分光による水中のRNAの分子間振動の理解:創薬への応用に向けて
Publicly Offered Research
Project Area | Aquatic Functional Materials: Creation of New Materials Science for Environment-Friendly and Active Functions |
Project/Area Number |
22H04520
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
城田 秀明 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00292780)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / ヌクレオチド / 分子間ダイナミクス / 水溶液 / RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
R4年度は、まず定常状態ラマン分光装置(ss-Raman)を作製・スペックの確認を行った。そのテストサンプルの測定として芳香族化合物を溶質とした水溶液についてフェムト秒ラマン誘起カー効果分光(fs-RIKES)とss-Ramanを組み合わせた広範囲のラマンスペクトルの測定を行った。特に、芳香環の電荷の有無による分子間振動の影響を明らかにできた。 その後、一般的に市販で入手可能なRNAの水溶液について、fs-RIKESで十分な強度の信号が得られるかどうか、また議論可能なスペクトルが得られる濃度がどの程度かについて検討を行い、0.07g/mL Mの濃度では十分な信号が得られることが分かった。 次いで、ヌクレオチドの水溶液についてfs-RIKESとss-Ramanで検討を行った。シトシンとウラシルのヌクレオチドのリボース体とデオキシリボース体の違いについては、フェムト秒領域の分子間振動(~50 cm-1)にはあまり差が見られなかったが、ピコ秒以上(~10 cm-1)の比較的遅い緩和で違いが見られ、リボース体の方が20%程度遅くなるという興味深い結果が得られた。この結果を踏まえ、糖について調べたところ、リボースとデオキシリボースはほぼ同じであることが明らかとなった。このことは、ヌクレオチドにおいて水和構造がリボース体とデオキシリボース体で異なることが示唆されており、今後、より詳細な検討が必要である。 また、上記の研究に加え、領域内の共同研究(東京薬科大学藤田先生)も行った。ターゲットはコリン系の水和イオン液体である。分子間振動の濃度依存性について注目し、コリン臭化物塩は水溶液の濃度を変化させても分子間振動のピークはほぼ一定であった。これに対し、リン酸二水素コリン塩は濃度に依存し水分量が多くなると低振動シフトが観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の申請書に書いた通りに、ヌクレオチドおよび糖の水溶液についてリボース体とデオキシリボース体の比較に関するfs-RIKESとss-Ramanによる分光測定実験を1年目に行うことができた。この実験結果は予想に反してヌクレオチドではシトシンとウラシルのリボース体とデオキシリボース体ダイナミクスに違いが観測されるが、単純な糖ではリボース体とデオキシリボース体では違いが観測されないという、非常に面白い結果が得られた。また、RNAの実験条件(濃度など)も確認し、fs-RIKESでの実験が可能であることも確認できた。このように、R4年度は予定通りに進捗したものと考える。 また、共同研究については当初計画していなかったが、東京薬科大学藤田先生との共同研究を行うことができた。藤田先生の合成された塩を用いた水和イオン液体について二種類の塩の比較を行った。fs-RIKESの実験から、水素結合が関係する分子間振動においてアニオンの違いによって濃度依存性が異なるという大変興味深い結果が得られつつある。この共同研究の点については、予定以上に領域における研究を進めることができたのでは、と考えている。 このように本研究課題を順調に進めることができた主な理由は、研究協力者として本研究課題に参加してくれた大学院生2名(清水柾子およびMaharoof Koyakkat)が頑張って実験してくれたことが大きいと考えている。加えて、レーザーを含む分光装置において、故障などの大きなトラブルがなかったことも順調に研究を進められた要因だと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
R5年度は、R4年度で得られた興味深い結果、特にヌクレオチドにおけるリボース体とデオキシリボース体のダイナミクスの違いについてまず注目して実験を進めたい。違いが顕著に表れたのがピコ秒領域であったので、現在、別の研究課題で作製しているサブピコ秒光カー効果分光装置(ps-OKE)を使って、ピコ秒ダイナミクスの違いの詳細を明らかにすることを第一の目的とする。また、ウラシルとシトシン以外の塩基についても実験を行い、ヌクレオチドにおけるリボース体とデオキシリボース体のダイナミクスの違いが普遍的なものか、それとも塩基の違いによるものかを明確にする。そのために、ps-OKEの作製を行う。 上記のヌクレオチドについて検討した後、RNAについて実験を行う。特に1本鎖と2本鎖の違い、DNAとの違い(特に塩基配列が相補的なもの)について詳細な実験を行う。RNAは高分子であるため、ヌクレオチドよりも遅いダイナミクスが現れる。そのため、ss-Raman、fs-RIKESのみならず、ps-OKEの装置を用いた広範囲の時間スケールのダイナミクスの測定を行い、RNAの特殊性、DNAとの違いについて特に注目して研究を進める。 共同研究については、東京薬科大学藤田先生と取り組んでいる水和イオン液体について引き続き検討を行う。また、産総研今清水先生との共同研究(水和たんぱく)についても取り組み始めており、fs-RIKESでの実験条件が決まりつつある。R5年度はこれらの二件の共同研究も含めて本研究領域に貢献したい。
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