2022 Fiscal Year Annual Research Report
Understanding biological functions based on the heterogeneity of hydration water dynamics
Publicly Offered Research
Project Area | Aquatic Functional Materials: Creation of New Materials Science for Environment-Friendly and Active Functions |
Project/Area Number |
22H04566
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
今清水 正彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90465930)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水和 / サブテラヘルツ / 不均一性 / 誘電緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
サブテラヘルツ(sub-THz)波を照射した生体材料水溶液において、水和により束縛された水の緩和時間変化をマイクロ波領域の誘電応答として測定した。水和による水分子の集団運動の束縛は誘電率の低下として観測される。したがって、sub-THz波照射あるいは温度変化の条件を変化させることで、照射が水和に及ぼす影響を誘電率を指標として評価できる。 本研究では、0.1THzパルスを発生できるクライストロン光源を用い、試料セル底部からsub-THz波を照射し、上部の開放端同軸プローブによって、微量水溶液試料の誘電率変化を測定する手法を開発した。試料には、乾燥した卵白リゾチーム粉末を用いた。水と乾燥リゾチームを混合してから、水和構造が形成される過程が、0.1THzパルス照射によりどのように変化するかを詳しく調べた。具体的には、ベクトルネットワークアナライザから発生させた弱いマイクロ波帯の電磁波を同軸プローブの先端から試料に浸透させ、反射した電磁波の情報を検出して複素比誘電率を評価した。一般的な同軸プローブ反射法を用いた誘電率測定は試料長が十分長いことが前提となる。しかし、本研究ではsub-THz波照射の影響を観測するために、sub-THz波の浸透深さ程度まで試料長を短くする必要があり、この短い試料長のために一般的な測定を妨げる多重反射が起きた。本研究では、多重反射の信号が、試料の誘電率を反映して変化する現象に着目した。この信号を利用することで、sub-THz波照射による試料のわずかな誘電率変化を高感度に検出可能となった。THz時間領域分光法(東京理科大学・菱田真史氏との連携)とNMR分光法(東京大学・徳永裕二氏、竹内恒氏との連携)による相互検証を行い、開発した方法を用いて得られた結果の妥当性を精査した。誘電率測定系の開発において、杉山順一氏と田中真人氏(共に産総研)の協力を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
目的のsub-THz照射下の誘電緩和測定手法の開発を達成したことに加え、THz時間領域分光法やNMR分光法を用いて、開発した手法による測定結果の妥当性を確かめることができた。さらに本測定により、sub-THz波照射が不均一なタンパク質表面への水和を早める現象を発見した。本成果を学際領域のQ1誌に出版し、プレス発表を通して、得られた研究成果を広く国民に向けて発信した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、液体試料における誘電率の経時測定精度を高めるための装置的な改良行うとともに、試料の誘電率変化に対応すると考えられる多重反射信号の物理的な起源を明確化する。さらに、赤外分光などの誘電分光とは原理が異なる分光学的手法を取り入れ、sub-THz波照射による生体材料の水和構造が変化するという本研究で得られた現象の解釈を多面的に検証する。また、酵素活性変化等を指標とし、sub-THz波照射による水和構造変化と生物分子機能変化の関係を生化学的に調べる。実験だけではなく、sub-THz波照射が、いかにして不均一なタンパク質表面における水和反応を促進するのか(そもそもどうして、タンパク質表面における水和構造の形成には長い時間を要するのか)、その化学反応のポテンシャル障壁の微視的詳細について考察していく必要がある。
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