2022 Fiscal Year Annual Research Report
エキゾチック量子秩序を持つファンデルワールスハイパーマテリアルの創出
Publicly Offered Research
Project Area | Hypermaterials: Inovation of materials scinece in hyper space |
Project/Area Number |
22H04584
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井手上 敏也 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90757014)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ファンデルワールス界面 / 2次元結晶 / 磁性 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性を持つような2次元結晶を用いたファンデルワールスハイパーマテリアルの作製とその光物性の開拓に取り組んだ。 先行研究で見出したファンデルワールス結晶ヘテロ界面における対称性制御の知見を、対称性の異なる非磁性半導体2次元結晶と磁性ファンデルワールス結晶との界面へ適応することで、磁性を持つような新奇ファンデルワールスハイパーマテリアルを探索した。具体的には、3回対称性を持つ2次元半導体である遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS2やWSe2)と2回対称性を持つファンデルワールス磁性体であるCrPS4やCrSBrとの界面を作製して、界面で面内極性構造が発現するかどうかを光起電力効果を測定することで検証した。特に、MoS2とCrSBrの鏡像面を平行になるように積層させたヘテロ界面において、鏡像面方向に有限の光電流が流れる様子が観測された。MoS2およびCrSBrだけではそのような光起電力効果は生じず、また、鏡像面に垂直な方向にもそのようなゼロバイアス光電流は生じていないことから、界面において対称性が低下して極性構造が発現していることが示唆される。今後、磁性がこの極性界面の対称性や物性に及ぼす影響を光学特性の温度依存性や磁場依存性を測定することによって明らかにしていく予定である。 また、磁性ファンデルワールスハイパーマテリアルの別の設計指針の探索にも取り組み、エキゾチックな対称性やスピン配置の実現が期待される、磁気異方性の異なる2次元磁性体を積層させたヘテロ界面を作製してフォトルミネッセンスやラマンスペクトルの評価い、それぞれの磁気秩序が低温で残っている兆候を見出した。この界面に関しても、今後光学応答のより詳細な振る舞いを調べることで、新奇物性の開拓に取り組んでいく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先行研究で見出した、異なる対称性を持つ2次元結晶を組み合わせて界面の対称性を低下させることによって元の結晶には無いような物性を開拓する手法は、これまでその適応対象が2次元半導体界面に限られていたが、今年度にその知見を2次元半導体と2次元磁性体界面に適応して光起電力効果の観測に成功したことで、この手法が磁性や超伝導、その他様々な量子相を持つ2次元物質に普遍的に適応できる可能性が明らかとなった。この結果は、エキゾチックな量子秩序を持つファンデルワールスハイパーマテリアルの今後の研究を加速させる極めて重要な成果であると言える。 また、本年度は磁性ファンデルワールスハイパーマテリアルの別の設計指針の探索にも取り組み、進展を得た。特に、2次元磁性体同士の界面では、各々の磁性体の磁気異方性の違いや積層角度を変えた時の層内・層間のスピン間相互作用の変化といった3次元の磁性結晶には無い自由度が存在し、(非共線的なスピン構造等の)エキゾチックなスピン配置が自然に実現できる可能性があると同時に、準周期性がスピン配置や対称性、物性にどのような影響を与えているかといった点も興味が持たれる。本年度に容易磁化軸の異なる2次元磁性体界面においてそれぞれの磁気秩序が低温で残っている兆候を見出したことにより、磁性ファンデルワールスハイパーマテリアルのより多彩な制御手法を提案できる可能性があると同時に、界面におけるエキゾチックなスピン秩序や対称性を反映した新奇磁気物性の観測が今後大いに期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
磁性や超伝導といった特徴的量子相を有する新奇ファンデルワールスハイパーマテリアルにおける輸送特性や光学特性の研究を進める。 磁気秩序を持つハイパーマテリアルの研究では、対称性の異なる非磁性半導体2次元結晶と磁性2次元結晶との界面(3回回転対称性を持つ2次元半導体である遷移金属ダイカルコゲナイドと2回回転対称性を持つ2次元磁性体CrPS4やCrSBrの界面等)において、磁性が対称性と物性に及ぼす影響を光起電力効果や第二次高調波発生、ラマンスペクトル、フォトルミネッセンスといった光学特性の温度依存性や磁場依存性を測定することによって明らかにする。また、対称性や結晶構造、磁気異方性の異なる2次元磁性体を積層させたヘテロ界面や2次元磁性体を捻り角度を持たせて積層させた界面等の新しい磁性ファンデルワールスハイパーマテリアルの開拓も進め、その光学特性測定によってファンデルワールスハイパーマテリアルにおける新奇磁気光学応答の探索を行う。 超伝導を示すハイパーマテリアルの研究では、格子定数や対称性が全く異なる原子層が積層してできているミスフィット層状化合物の輸送特性研究に取り組む。構成原子層は同じであるが各原子層の層数が異なり、従って対称性の異なるような類似ミスフィット化合物間で超伝導特性がどのように異なるかを調べると同時に、超伝導の詳細な温度磁場相図を明らかにし、対称性の破れや特徴的構造を反映したエキゾチックな超伝導状態が実現するかどうかを検証する。さらに、対称性の異なる半導体2次元結晶と2次元超伝導体のヘテロ界面や捻り積層界面といった新奇超伝導ハイパーマテリアルの作製も試み、超伝導物性が界面の対称性制御や格子の非整合性によってどのように変調されるかを調べる。
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Research Products
(6 results)