2022 Fiscal Year Annual Research Report
Electronic structure of solid-electrolytes single-crystals studied by angle-resolved photoemission spectroscopy under electric field
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Interfacial Ion Dynamics for Solid State Ionics Devices |
Project/Area Number |
22H04612
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 孝寛 名古屋大学, シンクロトロン光研究センター, 准教授 (50370127)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光物性 / 固体電解質 / 放射光 / 電子状態 / 光電子分光 / 吸収分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、固体電解質のイオン伝導特性を担う電子状態を固体電解質単結晶におけるARPES測定によるバンド構造の直接観測により明らかにすることを目的とする。具体的には、①イオン伝導度やその異方性が大きく異なる単結晶試料における系統的なARPES測定で静的な電子状態を決定する。さらに、② Liイオン伝導に伴う価電子帯バンド構造の変化、特にLi結合状態の動的な変化を固体電解質単結晶における電場印加型ARPES測定で直接観測することで明らかにすることを目指す。 目的を達成するために 令和4年度は、これまでに我々がバンド構造観測に成功しているLa(1-x)/3LixNbO3 (LLNbO; x ~0.08) の電子状態におけるLi結合状態の影響を明らかにすることを目的として、リチウムを含まない母物質La1/3NbO3単結晶におけるARPES測定を行った。その結果、A1層面内方向において4 ~ 10eVで明確なバンド分散を観測することに成功した。さらに、観測されるバンド分散はLi置換系と類似したバンド構造を形成することを見出した。一方で、La1/3NbO3においては、Li置換系に高いフラックスを有する高輝度放射光を照射した際に生じるスペクトル変調 (ピーク分裂とブロードニングを伴うピークの高結合エネルギーシフト) が観測されないことが明らかになった。この結果は、光照射に伴うスペクトル変調がLiイオンの固体内部への拡散により生じることを示していると結論づけた。 上記の測定と並行して、電場印加型ARPES測定の実現に向けた準備をすすめてきた。具体的には、あいちSR BL7Uの光電子分光装置において新規に導入した試料電場印加系の調整および性能評価を行った。その結果、±10Vの試料電場を試料表面垂直軸方向に対して印加した状態で光電子スペクトルが得られることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
系統的なARPES測定については、Aサイト欠損型ペロブスカイト構造を有する固体電解質単結晶LLNbOおよびLiを含まない参照系LNbOにおいてそれぞれ明確なバンド分散を観測することに成功し、高輝度放射光を照射した際に生じる特異なスペクトル変調がLiを含まない系においては観測されないことを見出している。そのため、ARPESを用いて価電子帯におけるLi結合状態が切れることにより生じたLiイオンが内部拡散するメカニズムを明らかにする上での重要な知見が得られたと考えている。また、この結果はLiイオンの動的な性質が光フラックスや励起エネルギーの関数として得られる可能性を示唆していると期待している。 電場印加型ARPES測定を固体電解質単結晶において実現する上で必要不可欠なスパッタアニールによる表面清浄化方法の最適化については、実験室系ARPES装置への表面処理槽およびヘリウム光源系の導入の遅れにより、不十分な現状にある。一方で、あいちSRにおける電場印加系についてはおおむね順調にその性能評価がすすんでいることから進捗状況としてはおおむね順調に進展しているものと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、スパッタアニール表面処理による、LLNbO単結晶表面の清浄化条件の最適化を行う。ここで、試料表面清浄性の評価はHe IIα (hv = 40.81 eV) 励起光を用いたARPES測定により行うことを予定している。 上記のLLNbO単結晶表面清浄化条件の探索と並行して、系統的なARPES研究をさらにすすめるために、イオン伝導特性が大きく異なる系の測定を行う。まず、A2サイトLaを持ちNbをTiに置換したLi3xLa2/3-xTiO3 (LLTO) において、d電子の軌道相互作用やクーロン相互作用が小さくなることでLi-O結合エネルギーおよびLi分布量やギャップサイズに生じる変化を直接観測する。さらに、Li含有量が大きく、複雑なイオン伝導パスが予測されているガーネット型固体電解質単結晶 Li6.5La3Zr1.5Ta0.5O12 (LLZTO) に対しても系統的ARPES研究を行い、Liイオン伝導度向上を担う相互作用を静的な電子状態から明らかにする。 さらに、表面清浄化条件の最適化が達成され次第、LLNbO単結晶試料においてin-situ電場印加型ARPES測定を行う。観測したバンド構造の変化を表面電界効果の大小や表面リチウム濃度の増減の観点も合わせて総合的に比較することで、イオン伝導ダイナミクスにおいて主たる役割を果たす相互作用を実験的に明らかにできると期待している。電場下測定において表面バンドベンディングなどにより絶対評価が困難な価電子帯電子状態のエネルギー校正はLa, Nb, O, Li 内殻エネルギーから見積もられる化学ポテンシャルシフトの評価により検討する。また、ホルダ側固体電解質表面にLi供給用の電極膜を作成した条件下において生じる変化についても調べることで、界面リチウム飽和状態における電子状態に対する知見も得られる可能性があると考えている。
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Research Products
(10 results)