2022 Fiscal Year Annual Research Report
難伝導性活物質利用へ高濃度固体ナノ界面の多角的観測と掌握
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Interfacial Ion Dynamics for Solid State Ionics Devices |
Project/Area Number |
22H04622
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大野 真之 九州大学, 工学研究院, 助教 (30892533)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 全固体電池 / 固体硫黄正極 / 固体ナノ界面 / イオン輸送 / 固体電解質 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気化学反応に必要な電子とイオンを絶縁性の活物質に広く届けるためには、イオン・電子の輸送担体と活物質をナノレベルで複合化する必要があり、それゆえに複合体中の界面濃度が従来の正極構造と比較して飛躍的に大きくなる。この様な高濃度固体ナノ界面を含む複合体内部ではキャリアの輸送、とくにイオン輸送能が大きく減退し、例えば固体硫黄正極の更なる向上を妨げる要因となっている。しかし、その要因は判然としていない。そこで本研究では、高濃度固体ナノ界面近傍の多角的観測により、まずは輸送制限因子の同定を目指してきた。 輸送を制限する因子の可能性は多岐にわたる。界面において電解質の構造が変化する構造的要因であったり、界面部分に蓄積された空間電荷の影響であったり、界面近傍に存在するであろう空隙の影響であったり、界面での相互拡散や界面生成物の影響であったり、それら一つ一つの可能性を紐解くために、各因子を支配し得るパラメータを制御し、その影響を観測した。簡単のために、固体電解質と炭素で構成されるモデル複合体を用い、炭素の種類や形状、その表面修飾など、考えられるパラメータを変化させ、その輸送への影響を精査し、それを分光・顕微観測することで、高濃度固体ナノ界面近傍で起きている現象の理解が深まってきている。 領域内での連携も精力的に行っている。得意とする多様な固体電解質の供給や、複合体観測のためのリソースの受給など、個々のグループでは手が回らない部分を補うことで、領域目標の達成に向けた研究活動の遂行ができていると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでは比表面積の大きな電子伝導助剤を用いて硫黄と固体電解質との複合正極を作製し、その電池サイクル挙動と輸送の相関に着目した解析を行ってきた。しかし高濃度ナノ界面含有複合体内でのボトルネックがマクロな輸送にあることが明らかになってくるにつれ、よりエネルギー密度の大きな全固体リチウム硫黄電池の実現にはこの問題を解消しないことには更なるコツ上は望めないことが次第に判明してきた。しかしこのマクロなイオン輸送の鈍化の原因がどこにあるのかわからなければ改善の使用もない。そこで本研究では、界面状態の多角的観測により、高濃度ナノ界面含有複合体内部の界面近傍での現象の理解と輸送制限因子の同定を行ってきている。 これまでの研究で確立した複合体中の有効イオン伝導度測定手法をもって、変化させたパラメータがこの有効イオン伝導度にどれだけ影響を与えるのかを観測してきた。興味深いことに、硬い固体材料特有の現象として考えられていたイオン伝導パスの機械的な分断、つまり空隙の影響は、それほど大きくないことがこれまでの研究から明らかになってきた。複合体中の空隙量や絶縁性の混ぜ物の種類を変えながら検証を続け、現在までに有効媒質の挙動を逸脱する輸送変化を見せている複合体内界面近傍では、伝導担体と絶縁性の有効媒質と考える過程自体が誤りである可能性に至っている。つまり、界面近傍での固体電解質自体の変質が輸送に大きな影響を与えていると考えられる。このように初年度で輸送制限因子のあたりがつけられたことで、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、申請書の研究計画をベースに、硫黄を筆頭とする難伝導性大容量活物質利用に向けた、高濃度固体ナノ界面含有複合体内のイオン輸送向上を最終的な目的とした多角的な観測を行い、輸送制限因子の掌握と向上手立ての検討を行う。当初の予定では、輸送制限因子として、固体化学的な原因と機械的な原因の双方を仮説として挙げ、初年度は固体化学的な原因の検証とその改善、次年度では機械的な要因の検証とその改善をそれぞれ行う予定であった。しかし初年度で輸送制限因子の同定を優先したため、複合体内部での輸送改善に繋がり得る因子のあたりをつけるにいたったが、その改善手法の検討と機構理解はこれからである。 具体的に、有効媒質の過程から逸脱する挙動の理由は界面、特に固体電解質と炭素の界面での固体電解質の変質が原因であると推測できる。この界面の状態を透過型電子顕微鏡などを用いた微視的な観測、そしてNMRやXPS、ラマン分光測定を用いた分光観測により観測し、状態変化と輸送変化の相関を探求する。
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