2022 Fiscal Year Annual Research Report
Intrinsic periodicity of cellular systems and its modulation as the driving force behind plant development
Publicly Offered Research
Project Area | Intrinsic periodicity of cellular systems and its modulation as the driving force behind plant development |
Project/Area Number |
22H04712
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米倉 崇晃 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60932027)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植物発生 / 根 / 成長運動 / 回旋 / 回転 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、根の斜行伸長と回転の関係に注目したシミュレーション研究と、根の回転と回旋の関係に焦点を当てた実験研究を行った。 まず一つ目のシミュレーション研究では、根の回転をシミュレートするための数理モデルの構築が大方完了した。初期段階では頂点要素モデルの使用を検討していたが、研究を進める過程でその不適切さが判明した。新たなアプローチとしてセル・バーテックスモデルを基にした細胞の増殖モデルによるシミュレーションを採用し、モデルの構築を行った。ただし、細胞の極性の与え方については議論の余地が残っており、今後の課題として取り組む必要がある。 二つ目の実験研究では、根の回転が大きな運動である回旋の起源となる可能性が示唆された。シロイヌナズナの変異体spr1-3と温度感受性変異体rid5という、異なる遺伝的背景を有する2種の変異体を用いた観察を行った。これらの変異体はいずれも細胞の斜行伸長が促進され、結果として根が回転する。特に、rid5は高温に置いたときのみ強く斜行するという表現型を示す。spr1-3と野生型との比較では、spr1-3の方が有意に回旋運動の頻度が上昇していた。で、いずれの場合も回転の有無と回旋の頻度が相関することが確認された。また、温度感受性変異体rid5では、高温に置くほど回転と回旋のいずれもが活発になることが認められた。このことから、根の回転が回旋の駆動力である可能性が高まった。 これに関連して、シロイヌナズナの根の運動をゲル中のみでなく、気中または水中で観察することが可能になった。野生型の根では大きく螺旋を描くような運動が見られることがあった。ただし、実験系としてはまだ安定性に難があるため、さらなる改善を要する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度を通して根の回転をシミュレーションする数理モデルの構築はおおむね完了し、シミュレーション研究ができる状況になった。当初計画では頂点要素モデルの使用を検討していたが、本年度の研究によりモデルの使用が不適切であると判断されたため、セル・バーテックスモデルを基本とした細胞の増殖モデルを円筒側面でシミュレーションする系を構築した。ただし、細胞極性の与え方にはまだ議論の余地が残る。この点についての議論は翌年度に持ち越しとなってしまった。 根の回転とより大きな運動である回旋の関係についても、シロイヌナズナの変異体spr1-3と温度感受性変異体rid5という変異体背景・原因遺伝子の異なる2種の変異体で、回転の有無と回旋の頻度が相関することがゲル中での観察により確かめられ、回転が回旋を引き起こすことが示唆された。 ただし、ゲル中での回旋はほかの植物で見られる空気中・水中での回旋運動とは必ずしも等価でない可能性もあり、より土壌環境に近い、水中または気中での観察の必要性が指摘された。これに対して、そもそもシロイヌナズナの根のごく低い抵抗下での伸長運動のイメージングというこれまで技術的に困難だった課題に、飽和水蒸気または水没下での観察と言う突破口が開けるという、予想外の成果も得られた。
このように、いくつかの点で当初計画の達成に遠い面もあるが、予想外の突破口が得られた部分もあり、総合的にはおおむね順調に進展していると結論付けた。
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Strategy for Future Research Activity |
根の細胞列ごとに異なる伸長速度を示すことが根の回転である可能性を追求するためのセル・バーテックスモデルの解析は、第一に当該年度の課題となってしまった細胞極性の与え方として妥当な仮定を再検討したうえで、成長のばらつきによって回転が生じるかどうかを検討する方針である。 また、spr1-3、rid5が、気中ないし水中においても回転によって回旋が促進されるかを解析する。具体的には、横倒しにした実体顕微鏡下で根の運動を観察し、回旋の遺伝的背景の違いと回転の有無について考察する。 これらを通して、根の列ごとの伸長のばらつきがシロイヌナズナの根における回旋の駆動力となり得るか検討する。 これらを通して、根の伸長の列ごとのばらつきや極性が回旋運動に与える影響を考察する。そのうえで、シミュレーションにより、細胞により強い極性を掛けたときに根の斜行伸長がどのようになるかを調べることで、様々な植物で見られる根の回旋動態が再現できるかを確かめる予定である。
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