2022 Fiscal Year Annual Research Report
神経回路における多重情報コードの情報物理学的解析
Publicly Offered Research
Project Area | Information physics of living matters |
Project/Area Number |
22H04838
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
豊島 有 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10632341)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | システム神経科学 / 線虫 / 行動 / 神経活動 / 数理モデル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳・神経系は生物の持つ最も複雑な情報処理機構であり、その情報処理のしくみを明らかにすることは神経科学の究極の目標の一つである。線虫は全神経細胞とその接続が同定済みの唯一の生物である。行動中の神経活動を測定し、非線形力学など数理的・物理的な視点から解析することで、神経回路の情報処理のしくみを、システムのレベルで明らかにすることをめざす。 線虫の塩走性行動においては、進行方向およびそれに垂直な方向への塩濃度の勾配を同一神経細胞の活動の時間変化により検出しているにも関わらず、各々の方向の濃度情報を区別して質的に異なるふたつの走性機構を使い分けている。本研究では特に、周波数フィルタなどの神経回路の応答特性によりこれらの走性機構が使い分けられている可能性について、回路のダイナミクスの観点から解析することを目指した。
2022年度は、行動中の線虫の神経活動の観察を行い、代表者らが見出したSMB運動神経の位相応答特性を検証した。またパターン照明装置を活用した部位特異的光刺激によって、背腹に存在するSMB運動神経対(SMBD, SMBV)のうち一方だけを選択的に光活性化することで、SMBD運動神経が腹側方向への首振りを早期に中断させ、背側方向への首振りの開始を誘導することを実証した。線虫の背腹方向の首振り運動を振動子として説明する既存の数理モデルを基盤とし、本年度までに得られた知見を加えて、SMB神経の活動と行動を説明する数理モデルの作成を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部課題の順序を入れ替えたが、全体として当初計画の範囲内の進捗である。
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Strategy for Future Research Activity |
位相応答特性のさらなる検証のため実験データを追加する。また数理モデルの解析を進め、SMB神経の位相応答特性や行動への影響が、線虫のふたつの走性機構の片方(風見鶏機構とよばれる)を説明できるか検討する。もう一方の走性機構(ピルエット機構)について、関連するAIB介在神経等の活動を測定し、SMB神経の活動と比較する。
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