2022 Fiscal Year Annual Research Report
腸内マイクロバイオームの大規模継代培養による栄養共生関係の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Post-Koch Ecology: The next-era microbial ecology that elucidates the super-terrestrial organism system |
Project/Area Number |
22H04876
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
前田 智也 北海道大学, 農学研究院, 助教 (10754252)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 腸内細菌 / マイクロバイオーム / 共生 / 微生物相互作用 / 代謝リレー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒトの健康に重要な腸内細菌を対象とした大規模継代培養実験とメタボローム解析を行うことで、腸内細菌間における栄養共生関係の解明と、未分離新種のリソース化を目的としている。 腸内マイクロバイオームはヒトの健康や生活習慣など我々の生活に密接に関与している重要な存在であるが、それを構成する腸内細菌の大部分は単離されておらず、その詳しい生態の解析は困難である。腸内のような多様な微生物種が共存している環境では、代謝物の交換等の複雑な栄養共生関係が築かれており、このような微生物相互作用の関係やその強弱は、マイクロバイオームの構成や機能を決定する重要な要素である。そのため、栄養共生関係にある微生物は、その生育に共生パートナーを必要とする場合が考えられ、現在の培養技術では単離できない理由の一つとして考えられる。ある環境において常に同じ微生物種同士が共存している場合、それらは共生関係を築いている可能性が高いと考えられる。そのため、腸内マイクロバイオームを継代培養し、共存状態を維持し続ける腸内細菌種の組合せを解析することで、腸内細菌間の共生関係が明らかになり、共生関係にある未培養腸内細菌を単離することができると期待できる。昨年度は、ヒト由来の新鮮糞便を採集し、これを様々な糖質、有機酸、脂肪酸およびアミノ酸を単一炭素源とした最少合成培地を用いて継代培養実験を行った。その結果、最少合成培地を用いた場合、腸内細菌の生育には糖質が必須であることが明らかになった。また、継代培養後の腸内細菌コミュニティーがどのような種から構成されているのか解析したところ、糖質を主要な栄養源とした大部分の場合、一般的に大腸菌とBacteroides属、およびEubacterium属細菌の3グループが優占していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
健康な成人3人から新鮮糞便サンプルを採集し、これを嫌気チャンバー内で様々な糖質、有機酸、脂肪酸およびアミノ酸を主要な栄養源とした最少合成培地に植菌し、37℃で嫌気培養実験を行ったところ、糖質を添加した培地のみ腸内細菌の培養が確認された。このことから、好気条件下における環境細菌の生育とは異なり、嫌気条件下で生育する腸内細菌はその生育に糖質を要求する可能性が強く示唆された。そこで、17種類の様々な単糖、オリゴ糖などの糖質を主要な栄養源とした合成培地を用いて大規模継代培養実験を行った。継代培養実験の後、再構成された腸内細菌コミュニティーがどのような種から構成されているのか解析したところ、大腸菌とBacteroides属、およびEubacterium属細菌の3グループが優占していることが明らかになった。先行研究として申請者が行った土壌や淡水および海水から採集したマイクロバイオームを好気条件下で大規模継代培養を行った研究結果と比較して、嫌気条件下における腸内細菌の再構成コミュニティーは多様性に乏しい傾向が見られた。このことから、腸内環境は、土壌や淡水、海水環境と比較して細菌間の競合が激しい可能性が示唆された。続いて、継代培養実験により再構成された腸内細菌コミュニティーから腸内細菌を現在までに120株単離してシーケンス解析を行ったところ、4門7網13科28種を単離することができた。この中には新種候補の腸内細菌6種が含まれており、継代培養を行うことで従来法では培養・単離を行うことが難しい種を単離できる可能性を示すことができたことから、研究はおおむね順調に進んだと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、ヒト糞便を初発の腸内細菌集団として、様々糖質を含む合成培地において継代培養を実施した。次年度は、これらの継代培養後の集団から腸内細菌をさらに多数単離し、新種の腸内細菌の単離を試みる。単離用の培地として、継代培養で用いた培地を使う他、そこから単離される優占種の滅菌培養上清を添加した培地も使用することで、共生パートナーを必要とする種の培養を試みる。また、効率良く多数の新種を見つけるためには、様々な発色基質を使用することでコロニーを拾う段階で、ある程度種を見分ける工夫をする。このような工夫により多数のコロニーを取得し、16S rRNAのシーケンス解析を行うことで多数の新種腸内細菌の単離を試みる。 続いて、腸内細菌におけるCross-feedingの関係性を明らかにするために、単離した株を用いた共培養試験を行う。全種のペアワイズな組み合わせにおいて、様々な炭素源培地において、共培養と単独培養を行い、増殖速度及び、増殖収量を比較する。これにより、各細菌種におけるCross-feedingの関係性を明らかにする。さらに、菌体及び、培養上清成分についてLC-ESI-MS/MSを用いたノンターゲットメタボローム解析を行うことで、Cross-feedingに使われている代謝物の同定を試みる。
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