2022 Fiscal Year Annual Research Report
植物クチクラ層を基盤とする植物-微生物共生のダイナミクスとメカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Post-Koch Ecology: The next-era microbial ecology that elucidates the super-terrestrial organism system |
Project/Area Number |
22H04885
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
渡辺 大輔 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (30527148)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | クチクラ層 / 植物-微生物間相互作用 / ω-ヒドロキシ脂肪酸 / Rhodotorula属酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
陸上植物の地上部の表皮は多様な脂質成分から構成される疎水性のクチクラ層に覆われている。クチクラ層は、微生物が利用可能な水分や栄養源に乏しい過酷な環境であるが、外界から植物に作用するための第一の標的でもある。本年度は、クチクラ層に常在する微生物ダークマターを発掘するための手法を確立することを目的とした。クチクラ層を豊富に含むことが知られる果実由来の微生物叢を、クチクラ層の主要構成成分であるω-ヒドロキシ脂肪酸を単一の炭素源とする最少培地に植菌し、集積培養を行った。培養液から微生物を単離・同定した結果、クチクラ層にC16脂肪酸を高含有する植物種からは担子菌類の赤色酵母であるRhodotorula属酵母(R. mucilaginosaおよびR. glutinis)が、また、クチクラ層にC18脂肪酸を高含有する植物種からは酵母様真菌であるAureobasidium pullulansが共通して同定された。単離されたRhodotorula属酵母を各種最少培地において培養し生育を調べた結果、グルコースまたはω-ヒドロキシパルミチン酸を単一の炭素源とする最少培地において良好な生育を示したことから、ω-ヒドロキシ脂肪酸資化性を有することが明らかになった。興味深いことに、炭化水素鎖の鎖長や修飾基が異なる脂肪酸では顕著な生育が認められなかったことから、Rhodotorula属酵母がクチクラ層の構成成分であるω-ヒドロキシ脂肪酸を選択的に利用可能であることがわかった。以上の結果から、クチクラ層に常在する微生物ダークマターを発掘するための集積培養技術を確立し、得られた微生物が実際にクチクラ層の構成成分をエネルギー源として生育できる性質を有することを実証した。本研究課題の最終目標であるクチクラ層を介した植物-微生物間相互作用の分子メカニズムの実体解明に資する有用な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、植物-微生物間相互作用の新たな場として植物クチクラ層を想定し、クチクラ層に適応した微生物の存在を明らかにすることを目的の一つとしていたが、本年度実施した研究によりその目的を達成することができた。クチクラ層から単離されたω-ヒドロキシ脂肪酸資化性微生物を用いて、本研究課題の最終目標であるクチクラ層を介した植物-微生物間相互作用の分子メカニズムの実体解明が可能となるため、今後の研究の鍵を握る重要な微生物を発掘できたという点で、順調な進展を遂げたと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在までに単離・同定した微生物を活用して、本研究課題の最終目標であるクチクラ層を介した植物-微生物間相互作用の分子メカニズムの実体解明に挑む。生化学的探索、遺伝子機能予測、トランスクリプトーム解析を組み合わせ、微生物によるクチクラ層成分の分解・取込み・代謝に関連する鍵因子を同定し、相互作用メカニズムの実体を解明する。また、クチクラ層成分由来の微生物による代謝産物をメタボローム解析により調べ、その宿主への生理活性を明らかにすることで、宿主と各微生物の利害関係についての理解を深める。得られた知見を統合し、植物-微生物間相互作用の場としてのクチクラ層の新たな生理的意義を提唱する。また、今年度はクチクラ層を豊富に含むことが知られる果実に由来する微生物の探索を実施したが、同手法を活用することで他の植物材料からの微生物の探索も継続して実施していきたい。これらの研究を進展させることで、植物表層における微生物生態系ネットワークの全体像の理解に資すると期待される。
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