2022 Fiscal Year Annual Research Report
量子制御理論に基く量子多体系における物理的に自然なt-designの生成法の研究
Publicly Offered Research
Project Area | The Natural Laws of Extreme Universe--A New Paradigm for Spacetime and Matter from Quantum Information |
Project/Area Number |
22H05252
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
尾張 正樹 静岡大学, 情報学部, 准教授 (80723444)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | t-design / 量子制御 / 量子コンピュータ / 量子多体系 / 間接制御 / ランダムユニタリ変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は制御とt-designの関係を明らかにすることから始めた。従来のt-design作成法の多くは、2種類のランダムユニタリ変換を交互に繰り返す形になっている。この事実をヒントに、任意の2つのユニタリ群の閉部分群に対して、その2つの閉部分群がユニタリ群全体を生成するならば、2つ種類のランダムユニタリ変換を交互に掛け続けることで必ずt-designが得られることを証明した。 次に量子制御理論と上記で得られた定理を組み合わせ量子多体系に適用した。特に量子多体系が直接アクセス可能だが小さなプローブ系と直接アクセス不能な環境系に分けられる状況を考える。このような状況では、プローブ系へのユニタリ操作のみで全体系が制御可能になる例が量子制御の過去の研究から多数知られている。この問題設定において、上記のプロトコルは、ランダムな時刻にプローブ系上のランダムユニタリ変換を瞬時に行うというプロトコルで近似できることが分かる。以上の全てのステップを厳密に数学的に証明することで、多くの量子多体系上で、その小さな部分系へのランダムアクセスのみでt-designを実現するプロトコルが存在することを示した。 上記で得られたプロトコルがt-designに収束する速さは、量子多体系毎に異なる。そこで、プロトコルの収束の速さを数値計算により解析した。通常のダイアモンドノルムを用いたt-designの定義は、数値計算で効率的にチェックする事はできない。そのため、Framepotentialを用いたt-designの定義に着目し、プロトコルの収束の速さをFramepotentialを数値計算することにより解析した。特に、1次元XY模型やHeisenberg模型において、端の1・2量子ビットにランダムユニタリを掛けた場合の、t-designへの収束の速さが、量子ビット数に対して低次のべきとなることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、マルコフ化などへの応用を念頭に、量子多体系において従来手法よりも物理的に自然なt-designの生成方法を発見することである。そのために、今年度では、まず、量子制御理論の手法を応用することで、完全に制御可能な量子系において全体系のダイナミクスが必ずt-designとなるようなランダムな制御法が存在することを証明した。このことから、ランダム制御法を用いる事で、性質が良くわかっている1次元スピン系において、小さな部分系へのランダムなユニタリ変換により、全体系のt-designが達成されることを示した。本研究で、開発されたプロトコルは、同じランダム操作を繰り返す構造になっている。そのため、このランダム操作の繰り返し回数が、本プロトコルの計算量の指標となる。本年度は、Framepotentialの数値計算を行う事で、量子ビットの数が増えるにしたがって十分にt-designに近くなるまでに必要な繰り返し回数がどのようにスケールするかを調べた。結果として、XY模型やHeisenberg模型などの典型的な1次元スピン鎖については、必要な繰り返し回数は、量子ビット数の低次のべきでスケールをすることを示唆する証拠を得た。このことは、大きな規模の量子多体系においても、コヒーレンスを保てる時間内に、我々のプロトコルの実行が可能である可能性が高いことを示唆している。このことは、冷却原子系などにおけるt-design生成プロトコルの実装法を示すという本研究の目標が、実際に達成可能であることを強く示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における未達成の目標は、本プロトコルの冷却原子系での実装法を与えることと、本プロトコルの量子情報処理への応用を与えることである。今年度は、この2つも目標の達成を目指す。 一つ目の目標の達成のためには、次のように研究を推進する。現在、我々のプロトコルは、スピン鎖の端の1・2量子ビットに対してランダム操作を加えるという方法でt-designを生成している。しかし、この操作を冷却原子系において正確に演算する事は容易ではないと考えられる。そのため、より冷却原子系で実装が容易であり、かつt-desisnを生成することが可能な、ランダム演算を探索することを今後の目標とする。 二つ目の目標に対しては、量子変分量子固有値ソルバー(VQE)への応用を目指す。我々は、スピン鎖の端の1・2量子ビットにランダムな時刻にランダムな量子演算を施すと、t-designになることを示した。t-designを発生させるためには、量子演算に含まれているパラメータと対応する時刻をランダムに選択している。変分量子計算の視点から、この今年度の研究結果を見ると、我々は、スピン鎖の間接制御によりユニバーサル量子計算が実装可能な、パラメータ付き量子回路を得たことになる。したがって、適当なコスト関数に対してこのパラメータを最適化することで、スピン鎖上の変分量子計算が実装可能である。今後は、この手法により実装されたVQEの性能評価を行うと共に、パラメータの偏微分の実装方法や、間接制御によるオブザーバブルの実装方法を研究することで、スピン鎖の間接制御を用いたVQEの実用化を目指したい。
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