2022 Fiscal Year Annual Research Report
天然物ライブラリーとAIを利用する新奇有機触媒分子モダリティの開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Digitalization-driven Transformative Organic Synthesis (Digi-TOS) |
Project/Area Number |
22H05338
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
塩見 慎也 千葉大学, 大学院薬学研究院, 特任助教 (20892805)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | 有機合成 / 計算化学 / 情報科学 / 不斉有機触媒 / 天然物化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験化学ベースで計算可能なパラメータの設定と分子のデジタル化手法について検討を行い、天然物を基盤とする新奇不斉触媒の立体選択性の予測可能性について検討を行った。 具体的にはロウバイの種子より単離されるカリカンチンを触媒とする不斉マイケル付加反応を開発し、カリカンチンを化学修飾することによりその立体選択性を80%eeにまで向上することに成功した。種々のカリカンチン誘導体を合成し、それぞれの触媒で立体選択性を確認し合計で15種類のデータセットとした。カリカンチン触媒はDFT計算により正確なxyz座標データへと変換し、pythonによってカリカンチン中の21個の結合についてSterimolパラメータへと変換し、これにMulliken電荷、双極子モーメントを加えた89行のデータシートを作成した。このデータシートを用いて回帰モデルを作成したところ、少ないデータセットに対してもRandomForest回帰で良好な決定係数のモデルが構築できた。本回帰モデルによって75%eeと、学習セットに含まれる最適触媒の次に高い立体選択性の触媒を発見することに成功した。 一方で、水素結合供与部位、アミノ酸、ジアミン、ホスフィンという4つのパーツからなるBIMP触媒は不斉マイケル付加反応、不斉プロトン移動など合成化学的に重要な化学反応を高立体選択的に進行させることが知られている。BIMP触媒は4つのパーツを組み合わせることで従来の不斉触媒では実現困難な立体選択性を発現可能なポテンシャルを秘めた触媒であるが、その自由度の高さゆえに理論上100万種類以上のバリエーションが可能なため、反応によって最適な触媒構造の探索には実験者のセンスと多大な労力が必要となっていた。そこでカリカンチン触媒の時と同様にBIMP触媒についてもSterimol, Mulliken電荷、双極子モーメントを基本とするデータシートを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題開始当初は不斉触媒反応開発において機械学習などの情報科学を使用して効率的に触媒スクリーニング、あるいは触媒構造の提案が可能になれば理想的だという漠然的なアイデアしか持ち合わせていなかった。また、技術的にもpythonすら触ったことのない素人であったが、本研究課題に真剣に向き合うことで、分子をDFT計算によって正確な座標データへと変換したのち、pythonによってSterimolへと変換する一連の流れを確立することができた。得られた実験データを使い、実際に機械学習することで、回帰モデルが新しい触媒構造を提案できる可能性を見出すことができた。すなわち、研究開始当初は全くのゼロからのスタートであったものが、現在は分子のデジタル化を可能とし、立体選択性を十分説明しうるパラメータを見つけるに至った。また、実験、DFT計算、pythonによるデジタル化、回帰モデルの作成、反応性予測、合成とテスト、という一連の流れによる革新的触媒スクリーニング手法の開発は、研究計画にある天然物を骨格とする新奇不斉触媒モダリティの開拓のみならず、BIMP触媒のような理論上100万種類以上が合成できてしまう触媒分子の触媒最適化において極めて威力を発揮しうるモデルであることを発見した。加えて、立体情報、電荷情報を含む分子のデジタル化は、化学反応の立体選択性の説明にとどまらず、薬理活性予測などにも使用できるパラメータであることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
BIMP触媒は既に論文化されているものだけでも300を超えるデータセットがオンラインから入手可能であるため、BIMP触媒を使ったデータ解析によってSterimol、Mulliken電荷、双極子モーメントからなる説明変数が立体選択性の説明に十分適合しているか精査を行う。次に、データセットと回帰モデルの挙動を確認することで、実験化学的に有意義な回帰モデルを作成可能なデータ数について確認することで、従来の合成化学を何倍加速できるかを明らかにする。その上で、回帰モデルを使った触媒構造予測によってこれまでに発見されていなかった最適なBIMP触媒を創出する。本研究については現在進行中であり、現在54のデータセットを使用して訓練した回帰モデルにおいて、44種類の立体選択性の予測を行ったところ決定係数0.56、平均誤差11%eeの回帰モデルの作成に成功している。この回帰モデルの改良には一部簡略化した部分のDFT計算が重要であると考えられるため、回帰モデルを改良した段階で論文化を目指す。 次にSterimol、Mulliken電荷、双極子モーメントを説明変数とする回帰モデルによって立体選択性の十分な性能の確認が保障された上で、天然物ライブラリーからの新奇不斉触媒モダリティを開拓するための検討を開始する。昨年度までの検討によって、天然物で実現可能な反応について調査を行ったところ、ニトロスチレンとオキシインドール、あるいはケトエステルを基質とする不斉マイケル付加反応が適していることが明らかとなっている。今後は不斉マイケル付加反応に有用な天然物を広範に探索し、触媒構造をデジタル化、回帰モデルを使用して触媒性能未知の天然物における触媒性能の予測可能性について検討を行う。
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