2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of NMR approach for elucidating structural mechanisms of functional regulation of proteins via persulfidation
Publicly Offered Research
Project Area | Life Science Innovation Driven by Supersulfide Biology |
Project/Area Number |
22H05558
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
徳永 裕二 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80713354)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | タンパク質 / システイン残基 / 過硫化/パーサルファイド化 / 核磁気共鳴(NMR) / 立体構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌におけるtRNAの硫黄修飾を担うTus遺伝子群の発現産物のひとつTusEを対象とした溶液NMR解析より、積み荷硫黄がC末端領域のC108に付加された過硫化状態となると、TusEは顕著な構造変化を起こすことを明らかとしてきた。今年度は、TusEの立体構造決定に向けて、側鎖プロトンシグナルの帰属を推進し、硫化されていない状態について90%超の帰属を達成し、立体構造決定に向けて大きく前進した。また、2年度目の課題として設定した下流タンパク質MnmAとの相互作用解析にも着手し、TusE上のC108など硫黄運搬を担う構造領域にMnmAが結合すること、この結合はMnmAの活性に必要なATP存在下で強化されることを明らかとした。MnmAの添加に伴い化学シフト変化を示すTusE上の領域は、過硫化に伴い化学シフト変化を示す領域と重複した。このことから、過硫化状態のTusEはMnmAと特異な相互作用を形成することが想定された。本結果は、硫黄運搬系において働くタンパク質が、システイン残基の過硫化に基づく立体構造の制御を介して、特異的な硫黄運搬に必要な分子認識を達成することを示唆する。 さらに、領域内連携のもとに、炎症応答に関与するタンパク質の解析に着手し、着目する構造ドメインのNMR試料調製ならびにNMRスペクトルの取得・帰属を概ね完了した。当該タンパク質の過硫化状態におけるNMR測定より、過硫化に伴う顕著な構造変化を確認した。このことは、当該タンパク質が炎症下の細胞内におけるレドックス環境の変化を、システイン残基の修飾状態の変化を介して感知し、立体構造に基づいて機能状態を変化させることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TusEの立体構造決定に向けた側鎖シグナルの帰属を9割方完了した。立体構造決定には至っていないものの、構造決定に必要な解析基盤は整った状態といえる。また、2年度目に予定していた下流タンパク質MnmAとの相互作用解析に先行して着手し、相互作用部位の同定に成功した。得られた相互作用部位の情報より、過硫化に伴うTusEの構造変化はMnmAとの結合様式を変化させる可能性が示され、過硫化状態に基づく立体構造の調節を介した細胞内硫黄運搬の特異性および効率の制御機構を提示する見通しを得た。また、領域内連携にも着手し、可溶性の低い目的タンパク質の高濃度試料調製法を確立するとともに、指紋スペクトルであるNMR主鎖アミドシグナルの帰属を概ね完了し、システイン残基の過硫化に伴うスペクトル変化を捉えるなど、短期間に着実な進捗を得ている。以上より、本研究におけるR4年度の進展は概ね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、C108過硫化状態におけるTusEの立体構造決定に向けて帰属等のNMRスペクトル解析を推進する。ただし、TusEは側鎖プロトンシグナルの化学シフトの分離が悪いLysおよびArgの塩基残基に富み、一義的な帰属が容易でないことから、スペクトルの質が低下する過硫化条件における完全な側鎖の帰属は困難となる可能性もある。そこで、感度およびシグナルの分離に優れたメチル基選択標識と、過硫化に依存した構造変化に重要と考えられるLys残基の選択的なプロトン標識を組合わせることにより、両者間の近接情報(NOEシグナル)をピンポイントで観測することにより、過硫化に伴う構造変化について情報を得ることも検討する。得られた詳細な構造変化の知見に基づき、構造変化に変調を来した変異体を合理的に作製し、この変異体を用いて細胞内における硫黄運搬効率を定量することで、システイン残基の過硫化に依存した構造変化と生理機能の関係を明らかとする。また、硫黄運搬経路における上流・下流のタンパク質との相互作用解析については、下流のMnmAとの相互作用解析を引き続き検討し、硫黄運搬の効率化のメカニズムを明らかとする。これに加えて、上流のTusBCD複合体との相互作用解析も実施することで、過硫化されていない状態においてはTusEのC末端領域が高い運動性を保持していることの意義についても検討を進める。領域内共同研究については、解析対象タンパク質中の4個のシステイン残基それぞれについて、過硫化条件における構造変化に対する寄与を明らかとすることを目的として、構成的な変異体解析を行う。得られた知見に基づき、細胞内のレドックス状態に依存した炎症応答タンパク質の機能制御の構造機構について考察する。
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