2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞の組織からの離脱と組織の修復を両立させる、細胞社会における細胞終焉機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding multicellular autonomy by competitive cell-cell communications |
Project/Area Number |
22H05637
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
川根 公樹 京都産業大学, 生命科学部, 准教授 (60362589)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞脱落 / 細胞死 / 細胞外小胞 / 細胞接着 / 上皮 / エンドサイトーシス / アポトーシス小体 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮や内皮などの細胞終焉様式である細胞脱落において、「組織から細胞を除くこと」と「組織を修復・維持し、恒常性を保つこと」を両立せしめている仕組みを明らかにする、という研究目的を達成するために、1. 細胞外小胞形成に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする、2. 細胞接着の動態に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする、3. 1,2の機構が組織の恒常性の維持をもたらす仕組みと役割を明らかにする、の3つの研究を計画した。この内、本年度は1,2についての研究計画を実行した。 1. では、「小胞形成によって脱落細胞の一部を切り取ることで、隣接細胞が侵入するスペースをうみだし、これによって脱落細胞の離脱を促進する」という仮説を検証し、これを支持する結果を得た。具体的には、哺乳類培養細胞を用いて、小胞形成時の隣接細胞の細胞膜や細胞骨格の動態を可視化して解析を行ったところ、小胞形成によって小胞形成面の細胞の断面積が大きく減少し、その時、隣接細胞が、細胞境界にアクチンを集積させ、断面積の減少によってできたスペースに侵入してくることがわかった。さらに、平島剛志博士 (当該領域計画研究代表者:当時)との共同研究により、二次元の数理モデル解析を行って、仮説を支持する結果を得た。また、この細胞外小胞形成がアポトーシス小体の性質を持つことも示した。 2. では、細胞脱落におけるアドへレンスシャンクションの動態の全容解明に向け、哺乳類培養細胞とショウジョウバエ蛹上皮を用いて解析を行い、脱落細胞と隣接細胞の境界のE-カドヘリンがエンドサイトーシスによる取り込まれることを示す像を得た。加えてエンドサイトーシスに関与する遺伝子をノックダウンすると細胞脱落の実行に時間を要する結果を得た。以上より、エンドサイトーシスによるアドへレンスジャンクションの解体が、細胞脱落実行のスピードを規定することを強く示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画1,2の内、「1. 細胞外小胞形成に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする」では、「小胞形成によって脱落細胞の一部を切り取ることで、隣接細胞が侵入するスペースをうみだし、これによって脱落細胞の離脱を促進する」という仮説を、イメージングを用いた細胞生物学手法及び、数理モデル解析によって検証し、いずれにおいてもこれを支持する結果を得た点は、当該課題の目的達成への大きく進捗となった。加えて、この細胞外小胞がアポトーシス小体の性質を持つことを示し、その特徴をより詳細に解明した点も意義が大きい。 「2. 細胞接着の動態に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする」、では、アドヘレンスジャンクションの動態についてエンドサイトーシスの関与を示せた一方で、タイトジャンクションの動態を明らかにすることは次年度に持ち越しとなった。 以上のことより、「組織から細胞を除くこと」と「組織を修復・維持し、恒常性を保つこと」を両立せしめている細胞脱落の実行機構の理解について、意義の大きい前進が達成できたため、全体としては、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
「1. 細胞外小胞形成に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする」、では小胞形成に細胞膜のホスファチジルセリンの外層への露出が関与するという知見をもとに、この過程にホスファチジルセリンの受容体や、受容体からのシグナル伝達分子がどのように関与するかを遺伝子ノックダウンとライブイメージング解析を組み合わせて調べる。 「2. 細胞接着の動態に焦点を当て、細胞脱落の実行機構を明らかにする」、では細胞脱落におけるアドへレンスシャンクション及びタイトジャンクションの動態の全容解明に向けさらに解析を進める。これまでに私達が得てきた各細胞間接着の動態の知見をもとに、脱落時に脱落細胞と隣接細胞間の細胞接着が解体される機構を、エンドサイトーシスに関与する様々な遺伝子のノックダウン等を用いて、どのようなタイプのエンドサイトーシスががどのようにこれに関わるかなどをより詳細に調べるとともに、接着装置複合体 (接着分子の細胞質側で形成される)がどのように解体されるかも明らかにする。加えて、細胞接着の解体において、脱落細胞と隣接細胞のどちらでの反応が最初におこるのかの問題に答えを得るため、超高解像度顕微鏡解析も計画する。 「3. 1,2の機構が組織の恒常性の維持をもたらす仕組みと役割を明らかにする」、では細胞脱落の実行に関与する遺伝子をショウジョウバエの腸管でノックダウンした時に、腸管上皮のバリアが破綻するか、炎症が惹起されるかなどを、組織学解析や遺伝子発現解析などで調べる。
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