2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of dynamics of CO2 fixed by soil microbiome
Publicly Offered Research
Project Area | Digital biosphere: integrated biospheric science for mitigating global environment change |
Project/Area Number |
22H05720
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30285241)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | 土壌 / 藻類 / CO2固定 |
Outline of Annual Research Achievements |
水田、畑地、草地、林地から採取した土壌を光照射下で培養しCO2吸収活性を比較した。水田、畑地の土壌を用いてガスクロバイアル内に土壌カラムを作成し、土壌表面と気相とのCO2交換に及ぼす光の影響を解析した。畑地、草地土壌は水田土壌と同程度のCO2吸収活性を有していると推定された。CO2吸収速度は光強度に依存的であり、設定した最弱光強度(9 micromol m-2 s-1)でもCO2吸収活性が認められた。土壌カラムから放出されるCO2量は光照射により著しく減少し、気相のCO2濃度は大気レベルを下回ったため、土壌から放出されるCO2の一部は土壌表面で再吸収されるばかりでなく、大気レベルのCO2を吸収する高い基質親和性が示された。 植物育成用LEDライトを取り付けた土壌呼吸測定用チャンバーを作成し,野外における水田、畑地の土壌CO2フラックスを測定した。土壌CO2フラックスは暗条件に比べて明条件で低く、本研究で作成したライト付きチャンバーの有用性が示された。土壌表面での推定CO2吸収速度には時空間的な違いがあったことから、土壌のCO2吸収には光以外の因子も関与すると考えられた。 rRNAを発現する水田土壌の原核微生物・真核微生物群集に及ぼす光の影響を解析した。また、13C標識CO2を用いた安定同位体プロービング法により、光照射によりCO2由来の炭素を利用する土壌微生物群集の探索を行った。原核微生物群集では藍藻が最も優占であった。真核微生物群集では、緑藻・珪藻の優占度が大幅に上昇した。安定同位体プロービング実験では明条件でのみCO2に由来する13CのDNAへの取り込みが確認され、原核微生物では藍藻の他、多様な細菌が13Cを取り込んでいることが示された。真核微生物では、緑藻、珪藻が圧倒的に優占した他、糸状菌、アメーバ、Cercozoa鞭毛虫が13Cを取り込んでいることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
室内培養実験では、土地利用の異なる農地土壌(水田、畑、草地)で光照射に伴う活発なCO2吸収を示すことができた。最近示された中国の農地における同様の実験結果に比べてその活性は非常に高く、今後理由を明らかにする必要はあるが、本研究の成果はこれまで認識されていない土壌藻類の高いCO2固定ポテンシャルを示している可能性がある。また、水田土壌では晴天時の100分の1以下の弱光条件でもCO2の吸収は認められ、植生下、曇天、また朝晩など、野外において光強度が十分でない場合でも土壌がCO2を吸収することが示唆された。 本研究課題で新たに作成した植物育成用LEDライトを取り付けた土壌呼吸測定用チャンバーは、今後さらに改良を重ね、安定的な測定手法の確立を行う必要はあるが、圃場におけるCO2フラックスに及ぼす光の影響を解析する有効な手段であることが示された。 安定同位体プロービング法とアンプリコンシークエンスを用いた解析では水田土壌で光照射によってCO2を固定する光合成真核・原核微生物を直接的に明らかにすることに成功した。また、光合成微生物以外にもCO2を利用する微生物の存在が示され、光合成微生物によって固定されたCO2が土壌微生物生態系を駆動する炭素源となることが示唆された。また、固定されたCO2由来の炭素の土壌中の化学形態の解析も実施している。 以上のように、本年度は本研究課題の主目的「土壌マイクロバイオームのCO2吸収機能の役割を明らかにする」に対し、物質循環およびそれに関わる微生物の生態について異なるアプローチで先駆的知見を得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究はおおむね当初計画に沿って進んでおり、今後さらに研究を深化させる予定である。 本年度は開発したLEDライト付き土壌呼吸測定用チャンバーを用いて、異なる土地利用下の圃場レベルでの土壌のCO2吸収速度の時空間変動を明らかにする。土壌温度や水分をはじめとする環境要因の測定も合わせて行い、環境パラメータとCO2吸収速度との関係を解析する。また、土壌コアを用いた室内でのCO2吸収測定の手法を開発し、より多くの土壌試料のデータを収集するとともに、給水や乾燥、施肥などの操作実験を行い、土壌のCO2吸収速度を推定するモデルの構築を試みる。土壌に同化された13CO2由来炭素のバイオマス、非バイオマスへの分配や化学形態を明らかにする。また、同化された炭素の代謝回転時間を推定する。 13C標識CO2を用いた安定同位体プロービング法を水田以外の土壌にも適用し、光照射によってCO2由来の炭素を利用する微生物群の比較を行う。土壌から光合成微生物を分離し、形態観察、生化学試験、ゲノム解析をもとに分類同定する。また、CO2固定に関する生化学的特性や環境条件への応答を明らかにし、応用利用の可能性を探る基盤的知見を得る。
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Research Products
(2 results)