Research Abstract |
先端成長過程の細胞壁のゆるみに関与する細胞壁多糖分子を非維管束植物であるヒメツリガネゴケ原糸体を用いて探索した。また,一次細胞壁のゆるみの状態が硬化へ切り替わる過程に関わる分子過程の解析を,シロイヌナズナの花茎を用いて進め,以下の結果を得た。 (1)ヒメツリガネゴケ原糸体の先端成長に関わる細胞壁多糖の探索:被子植物の細胞壁では,キシログルカン(XG)がセルロース微繊維間を架橋し,エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)が架橋の再編に関わることを実証してきたが,コケ植物でのXG/XTH系の存在は不明である。そこで,細胞壁多糖抗体ライブラリーを用いて,ヒメツリガネゴケの原糸体細胞壁中の多糖エピトープの探索を行った。その結果,XGエピトープが原糸体全域に局在すること,先端成長域にラムノガラクツロナンI(RG I)が局在することを明らかにした。 (2)一次細胞壁における「細胞壁のゆるみ」から「硬化」への移行過程の実証:細胞壁のゆるみは一次細胞壁により制御されるのに対して,細胞壁の硬化は一次細胞壁の内側に沈着する二次細胞壁によるとするのが従来の考え方であった。ところが,シロイヌナズナ花茎の基部で発現し,その欠損により細胞壁硬化が抑制されるペクチンメチルエステラーゼは,二次細胞壁ではなく,一次細胞壁に於いてペクチンの脱メチル化を引き起こすことを我々は実証した。これにより,一次細胞壁が組織支持に直接関わることが初めて実証された。一次細胞壁のペクチンの脱メチル化が細胞壁のゆるみの制御に関わることは以前より知られている。したがって,今回の結果は,細胞壁のゆるみと硬化が,一次細胞壁内で起こる連続した過程であることを示すもので,これにより,細胞成長の制御が「細胞壁のゆるみ」から「細胞壁の硬化」へのモードの切り替えであるとする我々の仮説は実証されたと考えている.
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