Research Abstract |
本研究では,転位や粒界等の格子不整合領域における溶質元素の偏析,すなわち化学的相互作用を利用した,超微細粒材料に代表されるバルクナノマテリアルの粒界性格制御手法を探索することを目的としている.具体的には,種々の添加元素を固溶したアルミニウム合金(Al-X合金)を対象とし,加工およびその後の熱処理に伴う組織変化,特にサブグレイン組織に着目し,溶質元素の分布状態を調べることで,Al-X合金におけるサブバウンダリー(小角粒界)の制御法を検討することを本研究の目的とする.採択初年度にあたる平成22年度は,超微細粒材料作製の主流となっている塑性加工に伴い形成される加工組織形成過程に対する溶質元素の影響を調査することを目的として研究を行った.供試材は純Al(純度99.99%),AlにSiおよびFeを溶質元素としてそれぞれ添加したAl-Si合金,Al-Fe合金とした.供試材に90%の冷間圧延を施し,透過型電子顕微鏡により断面観察し,転位の形態,配列を評価することで加工組織の評価を行った.純Alが等軸粒であったのに対し,SiおよびFeを添加したAl合金は,結晶粒が圧延方向に伸長したパンケーキ状の組織を呈していた.ただし,ランダムに転位が存在していたAl-Siと,転位が任意の間隔をもって規則的に配列していたAl-Fe合金でその転位組織の様相は異なることが明らかとなった.なお,一部の試料は,計画班(AOl(ア)班)の波多准教授に協力頂き,プリセッション法を用いて下部組織の方位差に着目した構造解析を行い,Si添加によって粒界方位差の大角化,すなわち微細化が促進されることが明らかとなった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,バルクナノメタルにおける粒界性格制御法の探索と題して,バルクナノメタルの組織形成プロセスと微量添加元素の関係について調査を行っている.本年度は,Al中に含まれる代表的な不純物元素であるとともに,ユビキタス元素として,さらなる活用が期待されているFeとSiに注目し,Al-FeおよびAl-Si合金の2合金を作製し,バルクナノメタル作製に不可欠である加工組織の評価を行った.本年度は,添加元素に応じてその加工組織が異なることおよび添加元素の分布に相違が認められることを見いだし,当初予定していた研究計画は順調に進展していると考えている.ただし,現時点で組織評価を行った材料は,結晶粒径がマイクロメートル以下の超微細粒には到達しておらず,本年の課題として研究を遂行する.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は,Al-SiおよびAl-Fe合金に加えてMgを添加したAl-Mg合金も対象とし,加工組織と溶質元素の影響を評価する.なお,本年度は圧延加工組織の観察のみ行ってきたが,これに加えて,定ひずみ速度圧縮試験を行い,種々の領域で,特に粒界方位差に着目した組織観察を行う.得られた実験結果と理論計算を併用することで,粒界方位差と相当ひずみの関係に対する溶質元素の影響を評価することを予定している.
|