2011 Fiscal Year Annual Research Report
高分解能スピン分解ARPESによるトポロジカル絶縁体における微細電子構造の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries |
Project/Area Number |
23103501
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 宇史 東北大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (10361065)
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Keywords | 光電子分光 / トポロジカル絶縁体 |
Research Abstract |
スピン分解光電子分光装置のエネルギー分解能を向上するために、高輝度低エネルギー紫外光を発生する低エネルギー励起光源系と、光電子のスピン情報を得るスピン分解ミニモット検出器の改良を行った。改良の結果、モット検出器におけるチャンネルトロンで検出される電子シグナルのノイズレベルを0.1cps以下まで落とす事に成功し、電子エネルギー分析器のパスエネルギーを低く設定してもスピン分解光電子分光実験ができるようになった。また、多軸回転試料マニピュレーターの設計製作を行い、試料のアジマスおよびチルト回転が正常に動作することを確認した。 建設改良を行ったスピン分解光電子分光装置および高輝度放射光施設を用いて、タリウム系3元カルコゲナイドTlBi(S_<1-x>Se_x)_2の高分解能角度分解光電子分光実験を行い、この系はx=0.5においてトポロジカル相(x>0.5)から通常の絶縁相(x<0.5)へのトポロジカル量子相転移を示す事を明らかにした。また、x<0.5の量子相転移近傍において、これまでの常識を覆して、時間反転対称性を明示的に破らなくてもディラック電子が質量を獲得することを初めて明らかにした。また、トポロジカル絶縁体Bi_2Te_3のスピン分解角度分解光電子分光実験を行い、表面ディラックコーン電子バンドにおけるスピン偏極度に有限の表面垂直(z)成分が存在し、z成分が結晶の周期性を反映して3回対称性を示す事を明らかにした。さらに、トポロジカル絶縁体Bi_<2-x>Sb_xTe_<3-y>Se_yの角度分解光電子分光を行い、表面およびバルクの電子状態の組成(x,y)依存性を決定した。その結果、この系がこれまで知られているトポロジカル絶縁体の中で、最もディラックコーンのエンジニアリングに適した物質であると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タリウム系トポロジカル絶縁体においては、その電子状態を高精度に決定する事で、時間反転対称性を破らずにディラック電子に質量が付与される事を見出したが、この結果は研究計画立案時には予想できなかった新しいものである。また、タリウム系以外の種々の新型ポロジカル絶縁体についてもその電子状態を高精度で決定する事ができ、研究計画を前倒しで角度分解光電子分光実験が進展していると判断されるため、区分(1)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、スピン分解光電子分光装置の更なる改良を進めつつ、新型のトポロジカル絶縁体候補物質の超高分解能スピン分解角度分解光電子分光実験を推進する。とりわけ、多軸回転試料マニピュレーターを実際の光電子分光装置に組み込み、ブリルアンゾーン全体を網羅する角度分解光電子分光のデモンストレーション実験を行う。また、トポロジカル絶縁体においては、タリウム系だけでなく、鉛系、ビスマス(アンチモン)系などの様々な新型物質の電子状態の決定を行い、それらのトポロジカル絶縁体の表面/バルク電子状態における類似点、相違点を明らかにするための研究を行う。また、装置の極低温化を推進することで、トポロジカル超伝導体の低温電子状態の解明も行う。
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Research Products
(23 results)