2011 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカル場の理論による凝縮系の新規量子現象の探索
Publicly Offered Research
Project Area | Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries |
Project/Area Number |
23103516
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
田中 秋広 独立行政法人物質・材料研究機構, 理論計算科学ユニット, 主幹研究員 (10354143)
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Keywords | 物性基礎論 / トポロジカル絶縁体 / トポロジカル場の理論 / リーマン・カルタン時空 / ベリー位相 |
Research Abstract |
「位相幾何学的不変量」が低エネルギー物性を支配して、普遍的な量子効果の発現に導くような物質相、例えばトポロジカル絶縁体、は近年大きな注目を集めている。このとき線形応答特性を表わす有効作用もまた系の位相幾何学的性質の情報のみを感知する「トポロジカル場の理論」で表わされると期待するのは自然であろう。この観点からこれまで電磁気的応答が重点的に調べられてきたが、数学的には他に多数のトポロジカル場の理論の存在が知られ、その物性論への応用を調べ新規量子効果を解明することが本課題の目的である。たとえば「重力的応答」、つまり時空計量が実効的に変形した状況を考え、計量変化に対する応答がトポロジカル不変料となる場合も考察して、新物性が発現する様子を解明しようとしている。 重力的応答が物性に顔を出す状況は主に二つ考えられる。一つは温度揺らぎを統計力学(温度グリーン関数)で扱う際、温度が空間依存性を持ち、虚時間時空に実効的な「曲率」が生じる場合で、これは熱輸送を決める。本年度はもう一つの状況である、格子欠陥により結晶中の電子の感じる時空が「捩じれる」場合を中心に研究を進めた。トポロジカル絶縁体の中に転位欠陥を導入し、電子に欠陥を周回させると、位置座標が格子定数の整数倍だけ跳ぶ。跳びの大きさが時空の「捩率」に相当する。捩率のある時空は、曲率のみを考慮するリーマン時空を拡張したリーマン・カルタン時空で表わされる。まず数値計算により、捩率の強さに関する一定条件のもとで、欠陥上に伝導チャンネルが生じることを確認し、それが重力的なアハラノフ・ボーム効果と電子スピンのベリー位相効果の相乗効果に帰着されることを示した。更にリーマン・カルタン時空に特有のトポロジカル場の理論が果たす役割、及びそこで許されるトポロジカル欠陥の構造を特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所期の目的である、電磁気的応答以外のトポロジカル量子化現象の解明うち、熱的応答に関しては、電磁気とのアナロジーに頼る直観的な議論に留まるものの、リーマン時空における重力応答の観点からいくつかの研究がなされている(Volovik,Read-Greenなど)。これに対して、曲率の他に捩率をも含むリーマン・カルタン時空におけるこの方向の研究はいまだほぼ手つかずの状態であり、一連の幾何学的不変量やトポロジカル場の理論が物性論へと新しく応用できる可能性が高い。この観点からトポロジカル物質相の分類、トポロジカル欠陥の非可換統計などへと研究を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
前項目の後半で記した方向に沿って研究を推進する上で、高エネルギー物理学で使われる数学的手法が必須である。高度に学際的な研究の性質に鑑みて、現在KEK・京大の素粒子論研究者との共同研究を開始している。またこれまでトポロジカル絶縁体・量子磁性体を中心に行ってきた研究を、トポロジカル超伝導体へと適用する予定である。なお、我々はレーザ光との結合により、物質の非トポロジカル相を断熱的にトポロジカル相に変質させる方法を提案してきたが、この手法を重力的なトポロジカル応答へ適用する研究も進めている。
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