2011 Fiscal Year Annual Research Report
イリジウム酸化物薄膜を舞台としたトポロジカル絶縁体の物質開発
Publicly Offered Research
Project Area | Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries |
Project/Area Number |
23103518
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松野 丈夫 独立行政法人理化学研究所, 高木磁性研究室, 専任研究員 (00443028)
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / スピン・軌道相互作用 / 電子相関 / パルスレーザー堆積法 / イリジウム酸化物 / エピタキシャル薄膜 |
Research Abstract |
スピン・軌道相互作用が大きくかつ空間反転の対称性の破れた舞台で発現する「トポロジカル絶縁体」が新しい物質状態として注目されている。5d電子系におけるスピン・軌道相互作用が約0.5eVと大きく、かつ電子相関とも競合するという特長を活かし、電子相関の効いたトポロジカル絶縁体の開発に取り組んだ。中でも、Ir酸化物は二次元的な結晶構造を持つSr_2IrO_4がモット絶縁体となる一方、三次元的なSrIrO_3は格子歪みとスピン軌道相互作用のカップリングの引き起こす半金属となっている。これらモット絶縁体と半金属を含む電子相図の理解により、スピン・軌道相互作用と電子相関の関わりを明らかにするのに適した系である。パルスレーザー堆積法によりSrIrO_3とSrTiO_3からなる超格子[(SrIrO_3)_m、SrTiO_3]をSrTiO_3(001)基板上に作製し、mを変化させることで次元性制御を行った。人工超格子ではバルク結晶と異なりmを自由に制御できるため、スピン軌道相互作用の強い系の電子相図を幅広く探索することが可能である。m=1の試料は弱強磁性を示し、Sr_2IrO_4と同様のモット絶縁体であることが示された。すなわち、一枚のIrO_2層が本質的にモット絶縁体であり、スピン・軌道相互作用、磁性、結晶構造の三者が互いに強く相関していることを示唆している。さらに、mの増加、すなわち三次元性の増大に伴い磁気転移温度は低下し、m=4において磁気転移が観測されなかったことから、次元性制御によるモット絶縁体相の消失が実現できた。これらは、スピン軌道相互作用の強い系において半金属(m=∞)からモット絶縁体(m=1)までの電子相制御を実証したという意義を持ち、今後のトポロジカル絶縁体相の開発につながる結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所期の目的であるトポロジカル絶縁体には到達していないが、その候補と考えられるイリジウム酸化物において人工超格子を用いた電子相制御を実現できたことは大きな意義を持つ。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン・軌道相互作用の大きい半金属であるSrIrO_3を人工超格子に組み込み、結晶構造に変調を加えることによりトポロジカル絶縁体が実現することを複数の理論グループが予測している。本年度の成果を踏まえ、イリジウム酸化物の超格子薄膜においてトポロジカル絶縁体を探索する。
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