2011 Fiscal Year Annual Research Report
対称性の破れた磁性体・超伝導体ナノ接合系における量子輸送理論
Publicly Offered Research
Project Area | Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries |
Project/Area Number |
23103520
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
川畑 史郎 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (30356852)
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Keywords | 超伝導材料・素子 / スピンエレクトロニクス / 量子コンピュータ / 強相関エレクトロニクス / 物性理論 / ジョセフソン接合 / 強磁性絶縁体 / メゾスコピック系 |
Research Abstract |
近年、対称性の破れた微小超伝導接合を舞台としてトポロジカルに非自明な量子状態の実現及び応用を目指した研究が盛んに行われている。本提案においては、時間反転対称性の破れた磁性体/超伝導接合の量子輸送現象理論の構築及び界面に発現する特異な量子状態である奇周波数クーパー対の物理に関する理論研究を行うことを目的とする。これまで奇周波数クーパー対の研究は、強磁性金属/超伝導接合のみを舞台として研究が行われてきたのであるが、この奇妙な量子状態が強磁性金属接合以外でも出現するのか今のところ分かっていない。一方最近になってNTTの赤崎らにより磁性半導体/超伝導接合系においてゼロバイアスコンダクタンスピークが発現することが明らかとなった。さらに、ゼロバイアスコンダクタンスピークの背後に奇周波数ペアリングが関わっていると期待されているが、その起源は未解決のままであった。本年度は磁性半導体/超伝導/超伝導接合系における超伝導近接効果に関して準古典グリーン関数法を用いた解析を行った。その結果以下の重要な事実を明らかにした。[1]磁性体の磁化が一様な場合は、磁性体のサウレスエネルギーと交換エネルギーが(偶然にも)一致した場合のみゼロエネルギーピークが発現する。[2]磁性体の磁化が非一様で非コリニアな場合、幅広いパラメータ領域でゼロエネルギーピークが発現しうる。これにより、NTTの赤崎らが観測したゼロバイアスコンダクタンスピークは[2]に対応していることが強く示唆される。本年度は奇周波数ペアリングの産業応用を目指して、超伝導/磁性体1/磁性体2接合におけるスピンバルブ効果についても理論的に解析を行った。その結果、奇周波数ペアリングのおかげで100%の完全スピンバルブ効果が実現可能になることが明らかとなった。さらに単一分子磁性体及びスピンフィルターを利用したジョセフソン効果に関しても理論解析を行い、異常な相転移現象が発現することを明らかにした。以上の成果について国内及び国際会議において発表をおこなった。また4件の招待講演を国際会議において行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NTTの赤崎らの実験結果を解明することを目的として理論解析を行い、その起源を定性的に明らかにすることに成功した。このことは、当該学術領域の主要テーマである奇周波数ペアリングの解明に大きく貢献したことを意味する。また、基礎研究のみならず産業応用を目指した研究も展開し、スピンバルブデバイスへの応用可能性を示すことに成功した。このことは、当該学術領域をさらに発展させるための重要な成果になると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主として理論モデリング及び数値シミュレーションに関して精力的に取り組んだ。来年度は実験グループと協力してインパクトの高い論文の執筆及び発表を目指す。また、実験グループとの協同研究体制をより強化し、実験データと定量比較可能な理論の構築を行う。また、根本的に新奇な奇周波数ペアリング検出法についても検討を行う。具体的には、ビームスプリッタで分離したクーパー対の電流相関関数測定を通して奇周波数ペアリングの直接的検出が可能となることを示す。
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