2011 Fiscal Year Annual Research Report
シリコン中原子空孔の量子状態シミュレーション
Publicly Offered Research
Project Area | Materials Design through Computics: Complex Correlation and Non-equilibrium Dynamics |
Project/Area Number |
23104505
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
斎藤 峯雄 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60377398)
|
Keywords | シリコン / 原子空孔 / 第一原理計算 / 密度汎関数法 / 計算科学 |
Research Abstract |
本研究では、工業的にその同定が重要であると考えられる、シリコン中10原子空孔の量子状態を第一原理電子状態計算に基づいて解析する事を目的としている。本研究では、シリコン原子2500個以上を含む大規模スーパーセルを用い、密度汎関数:理論に基づく計算を行い、10原子空孔について有用な知見を得た。 最近になり高品質の商業用シリコン結晶において極低温超音波計測により弾性定数の低下(ソフト化)が観測された。その原因が、単原子空孔であるとされたが、実験で得られた描像は、これまでの単原子空孔のものとは、大きく異なり,論争が続いている。 本研究の計算結果から、ソフト化の原因が10原子空孔であるとすると、これまでの実験結果が無理なく説明出来る事が分かった。とくに、セルサイズの大きなスーパーセル計算をはじめて実行することにより、欠陥に由来するA1準位がT2準位よりもエネルギー的に上にあることが分かった。このことが、様々な実験結果を説明する上で決定的に重要であることが分かった。さらに、N型半導体では、ソフト化は観測されないことが、本理論研究から予言された。この事は、これまで、N型半導体においてソフト化が報告されていない事実と矛盾しない。 本研究から、極低温におけるソフト化の起源に関して、重要な知見が得られた。ソフト化を観測する超音波計測法は、商業用シリコンの品質評価法として、実用的側面から大きな期待が寄せられている。この様な応用において、ソフト化の起源をサイエンスに基づいて明らかにする事が求められており、本研究はその様な要請に応えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シリコン結晶における弾性定数の低下(ソフト化)の起源を巡り多くの論争があった。本研究から、10原子空孔がその起源であるとすると、様々な実験結果と矛盾しない事を明らかにできた。この様な事が達成されたのは、本研究が、2500原子超の大規模計算を行ったことによる。ソフト化を観測する超音波計測法は、商業用シリコンの品質評価法として、実用的側面から大きな期待が寄せられており、本研究におけるソフト化の起源の究明はこの様な応用において重要な知見を供与するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
ソフト化の起源として10原子空孔が重要な候補である事が明らかになった。今後、さらに定量的な解析を進め、10原子空孔の妥当性を検討する。とくに、大規模なスーパーセル計算から4重極子の大きさを見積もり、どの程度の欠陥濃度でソフト化が観測されるのかを明らかにする。また、10原子空孔電荷状態が変化した場合の解析を進め、N型シリコンおよび、P型シリコンにおけるソフト化について研究を行う。
|