2011 Fiscal Year Annual Research Report
テラヘルツ時間領域分光法による励起子モット転移の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Optical science of dynamically correlated electrons in semiconductors |
Project/Area Number |
23104705
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島野 亮 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (40262042)
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Keywords | 励起子モット転移 / 電子正孔プラズマ / プラズマ遮蔽 / 絶縁体金属転移 / テラヘルツ時間領域分光法 / 電子正孔液滴 / プラズモン / バンドギャップリノーマリゼーション |
Research Abstract |
間接遷移型半導体Siを対象に、励起子気体絶縁相から電子正孔プラズマ金属相への移行(励起子モットクロスオーバー、以下、励起子モット転移と呼ぶ)をテラヘルツ分光法により調べた。電子と正孔が空間的に一様に分布する条件下で励起子モット転移を調べるために、密度の不均一化をもたらす電子正孔液滴の形成を避け、電子正孔液滴の臨界温度(23K)以上で電子正孔対密度を連続的に変化させながらテラヘルツ周波数帯の複素誘電関数を計測した。誘電率スペクトルのドルーデ-ローレンツモデルによる解析を行い、励起子の密度、自由キャリアの密度、励起子のイオン化率、励起子1s-2p遷移エネルギーとその緩和定数、自由キャリアの散乱レートを定量的に決定することに成功した。その結果から、励起子のイオン化率が急激に増大する密度、即ち励起子モット転移密度を明確に決定することができた。さらに、(1)励起子の束縛エネルギーが励起子モット転移密度の前後でも大きく変化しないこと、(2)励起子モット転移密度以上でも励起子相関が強く残っていること、(3)自由キャリアの散乱レートがモット転移密度近傍で著しく増大する一方で励起子の振動子強度と緩和定数は大きくは変化しないこと、(4)この濃度領域では、キャリア散乱レートが励起子相関に起因して運動エネルギーより一桁程度大きくなり異常金属相が出現していること、を明らかにした、さらに、励起子がモット転移密度近傍で励起子とプラズモンが結合した新しい素励起が現れていることを光学スペクトルから求めた損失関数の考察から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
誘電関数スペクトルの定量的な解析に基づき、半導体Siの励起子モット転移についての深い理解が得られた。従来の平均場理論では説明のつかない強い電子相関効果が励起子モット転移濃度近傍で顕在化することを見出し、半導体電子正孔系の動的電子相関を実験的に明瞭かつ直接的な形で見出すことができた。本研究で独自に提案したテラヘルツ分光法による励起子モット転移、電子正孔系の多体電子相関の研究へのアプローチが大変有用であることを実証することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
半導体Siでの励起子モット転移についての理解は深化した。今後は、広い温度範囲での測定から相図の決定を行うともに、励起子モット転移について微視的な観点から理解することを目指す。得られた結論がSi特有の現象なのか、あるいは半導体電子正孔系に普遍的な現象なのかを明らかにするために、これまでに開拓した実験技術を活用して他の物質系における励起子モット転移の機構解明を推進し、半導体電子正孔系の動的電子相関に関して包括的な理解を得ることを目指す。
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Research Products
(13 results)